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日本人と桜

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2005-04-04 深々と積もった雪もすっかり溶け、暖かな日差しが大地を照らすようになってきました。どんなに冬が長くても、春は確実にやってくるのです。今年も日本列島の南の方から桜の開花の便りが届きました。
 桜の木の寿命はどれくらいなのでしょうか。日本三大桜と呼ばれる桜があります。山梨県実相寺の神代桜と岐阜県本巣市の薄墨桜、福島県田村郡の三春滝桜です。その樹齢に驚かされます。なんと、神代桜は二千年、薄墨桜は千五百年、三春滝桜は千年と推定されているのです。これほど長く生きているのですから、大正時代に国の天然記念物に指定されました。美しい花を咲かせながら移り変わる日本の歴史を見守ってきたのですね。
 毎年、日本人は桜の花見を楽しみにしています。この習慣も相当昔から行なわれてきました。平安時代初期に即位された嵯峨天皇が花見を行なったという記録があります。平安貴族はさぞかし優雅に満開の桜を観賞し、ヒラヒラと散る花びらに風情を感じたことでしょう。室町時代には一休宗純僧侶が、「花は桜、人は武士、柱は桧、魚は鯛、小袖はもみじ、花はみよしの」と明言を残しました。それぞれ一番優れているものを挙げているのですが、花にいたっては桜が一番で、美しく咲き誇る地は美吉野(現:奈良県吉野地方)と評価しています。一休宗純僧侶が桜の美しさに陶酔した様子が思い浮かべられます。きっと、多くの人々が日本のあちらこちらで桜を見て感動したのでしょうね。
 さて、そのように古来より咲く桜にたくましさを感じますが、本当はとてもデリケートな植物なのです。
 特に現在私たちが観賞しているソメイヨシノですが、この品種は江戸時代に作られたもので、寿命は日本三大桜のように長くはありません。たったの六十年ほどと言われ、たくましくはないのです。よって、花見の最中に一本枝を家に持ち帰ろうとポキッと折ってはいけません。そこから腐敗が進み、翌年以降に花が咲かなくなることがあるのです。ビニールシートを敷く時も、根元から少し離れた位置が望ましいです。根を踏みつけると傷んでしまい、やはり木が腐る原因になってしまうからです。
 桜は毎年見たいもの。この気持ちは昔も今も変わりありません。そして、私たちの子孫もきっとそうでしょう。そのために、一本でも多くの桜が長く咲き続けられるよう、花見のマナーを守る必要があります。
(コラムニスト 愛川いつき/絵:そねたあゆみ)

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