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亥の月の亥の日

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0611_3旧暦の月の俗称として十二支を当てて呼ぶことがありますが、旧暦10月(新暦で11月)に当てられるのは亥(猪・いのしし)で、俗に亥の月(いのつき)と呼ばれます。

猪の肉は食用にもされ料理の隠語で「ぼたん肉」といって、兵庫県の丹波や神奈川県の丹沢地方などでは猪の肉を鍋に仕立てた「ぼたん鍋」が郷土料理として有名です。

この「ぼたん」という隠語が使われるようになった由来には諸説ありますが、その昔大陸から伝わった仏教により獣肉を食べる事が禁忌とされていた時代の事、しかし猪の肉は滋養に富むと言われ山間の民にとって重要な栄養源でありました。

そこで、民達は猪の肉を食べるために隠語を用いる事を思いつき、猪の肉を「ぼたん」と呼んで食べてきたといわれているのです。

別名・山鯨(やまくじら)と呼ばれるのも、かつては鯨も魚とみなされていた事から魚なら食べても良いだろう、という山間の民の知恵の一つなのです。またその滋養強壮効果から「薬喰い」とも称されました。他の獣肉にも隠語を用い、馬肉は「さくら」、鹿肉は「もみじ」などと呼び、またうさぎを1羽、2羽と鳥類と同様に数えるのも、鳥とみなして食べるための隠語に由来するといわれています。

また亥は中国の陰陽五行説によると水性の干支となり、火難を逃れるという信仰があったことから、亥の月の亥の日に炬燵(こたつ)や囲炉裏(いろり)を開くと火災にならないと信じられていました。

現在も茶道界では亥の月の亥の日に畳にきった炉を開き火を入れる「炉開き(ろびらき)」という行事が行われ、別名茶人の正月ともいわれる大変重要な年中行事の一つです。菓子は「亥の子餅(いのこもち)」という名の、餡を餅で包んだ菓子が付き物です。

長い冬に備えて滋養のある肉を食べて英気を養い、火の安全を水の干支である亥に祈念して暖の準備をする。

亥の月にはそんな先人の知恵が込められた暖かさが溢れているのです。

(文:現庵/絵:吉田たつちか)

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