UA-77435066-1

ブラックジャックに見る人間万事塞翁が馬

 | 

08-09-05手塚治虫の「ブラックジャック」と言う漫画をご存知でしょうか?
言うまでもなく、巨匠、「手塚治虫」の代表作の一つです。
このマンガ・・・、今でも売れ続けている、知る人ぞ知る超ロングヒットなんです。
ただ、この漫画が出る前に「神様」手塚治虫が置かれていた状況と言うのは、決して、順調なものではなかった。
かつてのように、出す作品、ことごとく子供達の心をわしづかみ・・・というわけにはいかなくなっておりもう誰の目にも、手塚の時代は終わったと映っていたそうで、ついに、手塚プロ倒産で自宅売却。
起死回生で最後の望みを託した「ミクロイドS」という作品も半年で打ち切り。
まさしく、どん底の状態だった。
そこへ、少年チャンピオンが「ブラックジャック」を連載することになって、編集長が担当者を募ったところ、誰しも、落ち目の作家など担当などしたくはないもののようで、やむなく、ある担当者にその話が廻ってきたそうです。
その人も、(こんな落ち目の作者、嫌だ!)と思い、「手塚先生じゃ、もう、だめですよ。」と言って逃げようとしたところ、編集長から「だめなのは俺にもわかっている・・・。なあ、手塚先生の死に水をとってやろうよ・・・。連載と言っても、5回だけだから・・・。」と言われ、渋々、押し付けられたそうです。
当時、コンセプトとして、「医者もの」「劇画タッチ」と言うことはあったが、それでも、誰も期待などすることもなく出版されてからの読者アンケートでも、16作品中12位で誰もが内心、「やはり・・・」の世界。
そうこうするうちに、手塚治虫は締め切り前日になって、「第四話が書けない」と言ってきたそうで、「連載作品なのに!」ってことになり、大慌てで、その担当者が家に駆けつけ、「書いてもらわないと困る!」と言ったところ、手塚は「今日だけは、今日だけは、勘弁してくれ!」と言って、そのまま、家を出て行こうとした。
担当者は、「冗談じゃない!書いてくれなければ困る!」と言って、ドアの前に立ちふさがって、手塚治虫を肉弾で突き飛ばし、肩をもんで、むりやり、椅子に座らせた。
手塚と言う人は、日ごろ、連載に穴を開けるようなことはなかったし、人を悪し様に言うような人ではなかったが、このときばかりは、「君は鬼だ!」と言って、突っかかってきたそうです。
この辺の両者の心理は、よくわかるような気がします。
手塚にしてみれば、みじめでみじめで・・・、とても、やってられないような心境だったでしょうし、担当者にしてみれば「だから、落ち目は嫌なんだ!」だったでしょう。
で、結局、間に合わないから、仕方なく、第四作のところに、そのまま、第一作目の作品を掲載したところ、その発売の翌日、出版社である秋田書店の電話と言う電話が鳴りっぱなしになり、出版部だけでは電話の応対が間に合わなくなって、ついには、社員総出で電話を取り捲らなければならないほどだったそうです。
内容はすべて、少年チャンピョンに「ブラックジャック第四話」が載らなかった事への苦情。
そこで、初めて、担当者は自分の担当している作品が、「どれほど支持されているのかがわかった。」と言っていました。
「人間、泣いてばかりも生きられない。笑ってばかりも生きられない。」
これは、重度の鬱病で生命の危険さえあった俳優、竹脇無我に対して、森繁久弥が言った言葉だそうです。
漫画界に、はかり知れぬ足跡を残した神様、手塚治虫・・・。
何とも人間くさい神様です・・・。人間万事塞翁が馬。
(文:小説家 池田平太郎/絵:吉田たつちか)

コメントを残す