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「世間様」というものを憚る意識

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(文:小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ)2017-1

 NHKで、平成3年(1991)に放送された漫画家、故・水木しげる翁の子供の頃を描いた「のんのんばあとオレ」というドラマがありました。水木翁は大正11年生まれといいますから、そのドラマの舞台になった頃というのはおそらく昭和の初め頃なのでしょうが、その中で、当時の子供たちは、隣町の子供たちと、もう、「抗争」と言っていいような激しい喧嘩をしたり、近所の子供を蜂の巣の木の下に縛りつけたり・・・というようなことをやっているんですね。翁よりも少し下になるうちの父たちも、線路を挟んで隣町の子供と石合戦をやった・・・などという話も聞きますので、さすがにこうなると、もう怪我どころの騒ぎではなかったでしょう。

 私が子供の頃も、その辺はまだ名残があったようで、近所の子供を殴ったり突き落としたり、逆に、頭にレンガを落とされたり・・・なんてことはちょくちょくありましたよ。ただ、我々の頃は、親は、いくら相手が悪かろうと、「おまえが悪い!」と自分の子供を叱りました。互いに自分ちの子供を叱りあうことで、コミュニティの中で大人同士が気まずい関係にならないように・・・という配慮があったのでしょうが、皆、それを決して「暗黙の了解」などという物ではなく、「常識」としてやっていました。対して、最近では子供が近所の公園なんかで喧嘩になると、親が学校に怒鳴りこみ社会問題になるとか。

 そこまで考えて、長谷川町子さんの「サザエさん」の一コマを思い出しました。あるとき、磯野家の末娘・ワカメちゃんが、男の子から、あまりにひどい怪我をさせられて帰ってきて、さすがにこれは、ちと、「親に注意したほうが・・・」ということになったのですが、一家の主、波平さんは一日考えた後、結局、帰宅途中で注意することをやめます。で、自宅の玄関に入ろうとして波平さんが見たものは、「うちのカツオが申し訳ございません!」と平謝りに謝る、妻・フネさんの姿。見ると、玄関先には、怪我して泣いている子供と激怒している母親の姿。 慌てて姿を隠し、「人様に注意などしないでよかったぁ。危うく世間様の物笑いの種になるところだったわい」

と胸をなで下ろす波平さん・・・。思えば、最近、一番欠けているのは、この「世間様」というものを憚る意識なのかもしれませんね。と、そこまで考えて気が付きました。こういう光景もまた、何も今に始まったことじゃなかったんですねぇ・・・。私も、あやうく、「世間様」の物笑いの種になるところでした。

(小説家 池田平太郎)2017-01

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