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国民の声を無視出来ない時代

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(文:小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ) 2017-4

 昨今、何かとお騒がせなトランプ大統領ですが、実は私は彼が当選したとき、それほど意外ではありませんでした。と言っても、もちろん、現地の選挙事情など知るよしも無く、まったくの直感程度のものでしたが、それでも、「有り得るんじゃないか・・・」くらいの思いはありました。私がそう思った理由、それはジャクソン大統領の時とよく似ていると思ったからです。
 ジャクソン大統領こと、アンドリュー・ジャクソンは1767年、アイルランド移民の子として生まれ(ナポレオンの2歳年長。)、アメリカ独立戦争が始まると13歳でこれに身を投じ(独立戦争に従軍した最後のアメリカ合衆国大統領。)、以後、開拓時代の混乱と無秩序の中で頭角を現す一方、ビジネスマンとしても成功を収めます。さらに、その上で、軍人としてもインディアンの大量虐殺や、米英戦争での歴史的大勝利などで全国的な名声を得、ついに、大統領候補となる・・・と。
 ただ、彼自身は元々、辺境からの叩き上げだったため、東部エスタブリッシュメントを中心とするアメリカ政界にはまったく基盤を持たず、そのため、自らの支持基盤を国民に求めます。が、その大統領選では圧倒的な国民からの支持を得ていながらも、国民の意向が直接反映されない複雑な選挙制度のために苦杯をなめ、次の大統領選で、ようやく、第7代アメリカ合衆国大統領となります。
もはや誰も、国民の声を無視出来ない時代が来ていたということで、私が現代のアメリカに感じた部分もこれでした。
 ジャクソンは大統領在任中、「官吏の総入れ替え」、「任意での拒否権発動」、「任期2期8年」など現代に続く多くの制度を残す一方、主権は人民にあると信じ、アメリカをアメリカ国民が望む形に作り替えようとします。ただ、国民と言っても、彼自身は人種差別主義者であり、彼にとっての国民とは白人だけで、自らの大農園で黒人奴隷を使役し、インディアンを遠隔地に強制隔離。これに違憲判決を出した連邦最高裁判所長官を批判して隔離政策を強行・・・と、これもどこかで聞いた話のような。
 また、いつの時代もそうですが、国民が望むようにと言っても、国民が望んでいるものは多くが自らの生活レベルの向上であり、「自国民が望む形」が果たして世界全体のためには良いかはまた別問題です。従って、当時から彼に対する反対勢力は多く、彼は「史上唯一、議会から不信任決議をされた大統領」であり、また、「史上初めて暗殺の標的になったアメリカ大統領(未遂)」でもありますが、それでも、国民からの支持は一貫して高く、その肖像は今も20ドル紙幣に採用されています。
(小説家 池田平太郎)2017-04

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