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目標提示は具体的に

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絵:そねたあゆみ

 昨年、イギリスが国民投票の結果、即日開票で離脱支持が過半数を制し、EUから離脱することになりましたよね。結果、世界はこれを「椿事」と捉え、世界中で多くの人が「予想外」を口にしていましたが、実は私は比較的早くからこの結果を予想していました。(途中、残留派議員の射殺事件などもあって言い切ることが難しくなったのですが、それでも、開票直前に「拮抗している」という話を聞いた時点で「離脱」を確信しました。)
 無論、英語も話せない私が現地の選挙事情など知るよしも無く、私がそう思った根拠こそ、中世ルネッサンスの思想家マキャベリの、「大衆の判断は抽象的に説明されたときに間違う」という言葉でした。
 すなわち、大衆に直接、判断を仰ぐときには、絶えず、具体的な形にして提示しなければならないということで、離脱派が「移民」という、これ以上ない具体的な物を争点とし得たのに比べ、残留派は「経済成長率が下がる」とか「国際影響力を損なう」とか、庶民の感覚からすると極めてわかりにくい、抽象的な概念に終始しました。
 この点、かつて、田中角栄元総理は初立候補の時に「(豪雪地帯の新潟に雪を降らなくする為に)三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばす」と言ったといいますし、同様に、創業直後の深刻な経営危機の際に本田技研工業創業者・本田宗一郎は、当時、夢のまた夢だった世界最高峰レースのへの参加と期限付きでの優勝を掲げました。
 ただ、「世界一になる」と言った抽象的な目標だけでは、時期が時期だっただけに、人は気休めとしか受け取らなかったでしょう。そこで、本田は具体的に「世界最高峰レースの制覇」を掲げたわけですね。
 さて、それらを踏まえた上で問題です。ナポレオンは、食糧不足、給料未払いで、軍服や靴にさえ事欠く、流民も同様の兵士らに更なる進撃を命じる時、果たして、何と言ったでしょうか?答えは、「兵士諸君!予は諸君を率いて地上最も肥沃なロンバルディアの平原に進撃する!広々とした田園の豊かな実り、繁栄している諸都市に山と積まれた金銀財宝 、それらすべてを諸君の獲るに任せよう」・・・です。結果、進軍を始めたナポレオン軍は獲物を求める群狼の如く、そのまま倍近い敵軍を撃破し、アルプスを越えてミラノに入城。物は言いようとはいえ、やはり、名将は苦しい時には目標を持たせることを忘れませんね。逆に、一番、最悪なのは「将軍様のご命令だ!黙って歩け」で、これでは良くて逃散、下手をすると自身の生命さえ怪しくなるでしょう
(小説家 池田平太郎)2017-10

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