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税は国の基本 

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絵:そねたあゆみ

 税は国の基本である。こういうと、何だかいかにも税務署に媚びを売っているようだが、別に媚びを売らんがために言っているわけでもない。そもそも、税務署員は税金を徴収したからといって彼ら個人の懐に入るわけでも無い。なのに、彼らは職務に忠実であり、ゆえに歓迎されない。特に戦後の生活難の時代、税務署は蛇蝎のごとく嫌われ、疎まれ、時には憎まれることさえあった。おそらく、本人はもとより、妻子もまた随分と肩身が狭い思いをしたのではないか。そこまでの思いをしてまで彼らは自らの職務を執行しようとした。それが彼らの仕事であると言ってしまえば確かにそうであるだろう。だが、彼らとて、人間である。戦後間もない頃、山口良忠に代表されるような、闇米を取り締まる側の人間ゆえに食糧管理法を遵守し、餓死して行った人もあったように、自らの職務に対する疑問譴責の念と現実生活の狭間で身悶えするような思いをした人も少なくなかったのではないか。まさしく、「職務と人情を秤に掛けりゃ」であろう。
 一方で、税負担は謳われているほど牧歌的なものでもないことも、また事実である。「元来、税法は、税務官庁が勝手気ままに税金をとるための法律ではない。税法に定めた基準以上に、課税しないと約束した法律である。(憲法による租税法定主義)」というが、これは理念の上では間違っていないが、現実には、必ずしも額面通りに受け取ることはできないこともまた事実である。
 だが、それを踏まえた上で、敢えて、「税は国の基本」というのはなぜか。それは、一部の途上国などが、未だにこの部分が確立しないがゆえに、国家として機能し得ていないからである。ある国では、入国時の入国審査の際に賄賂を要求された。賄賂を払うまで、入国手続きを意図的に遅らせ、嫌がらせをするのである。また、ある国では、映像で、まともな納税根拠も無しに徴税官が国民から問答無用で奪っていくのを見た。翌年の収穫のための種芋でさえも、「そんなこと、俺たちの知ったことでは無い」の言葉と共に奪っていく。彼らの頭には、来年からの税収がどうなるとかそういうものはない。どちらのケースにも、あるいは、官吏の側も自身の給与が満足に出ていないというようなこともあるのかもしれない。が、そうなってもいいのだろうか。国が安定しないと、かえって高くつくということは、今更言うまでも無いことのはず。つまり、税金の使いみちの問題は一旦、置くとしても、国家が安定するには、徴税という、もっとも足下の部分が確立する必要があるということは紛れもない事実である。
(小説家 池田平太郎)2018-09

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