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『笠地蔵』が伝える向き合うことの大切さ

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(絵:吉田たつちか)

 昔話『笠地蔵』は地蔵信仰のない沖縄県以外の日本全国に伝わるお話です。地域によって登場するお地蔵さんの数は違いますが、おおまかな筋は同じです。無欲にお地蔵さんに施しをした老夫婦に福がもたらされるというもの。このお話は仏教的な道徳を説くもので、今も大人が子供に伝えたい昔話の中で人気が高いものです。しかし、よく考えてください。お地蔵さんは本当に笠を欲しがっていたのでしょうか。もしかすると、邪魔だったかも知れません。というのも、一方的な善意の押しつけは単なる自己満足であり、なおかつ相手の意思の自由を奪うものです。相手が心から「必要だ」と思っていなければ、「善意に感謝をしろ」と強制するものでもあります。これは仏教的な道徳とはいえませんよね。
 でも、昔話『笠地蔵』はこの問題をクリアしている優れたお話。というのも、どの地域の『笠地蔵』も前半で老夫婦の苦労が描かれているのです。この「苦労」がポイントです。自分の境遇がつらいからこそ、大雪の中でたたずむお地蔵さんのつらさを想像し共感をしたのです。心理学的には「投影」といいます。こうやって自分のつらさをお地蔵さんに重ねたからこそ、お地蔵さんに笠をかぶせた。これはお地蔵さんのためではありません。自分のためなのです。自分のつらい気持ちを少しでも軽くするために、自分ではない人に優しくする。これを「代償行為」といいます。思い込みの善意ではなく自分のための行動ですから、善意の押しつけには当たりません。何よりお地蔵さんは祈りを捧げる対象であり、心のよりどころでもあります。ですから、老夫婦のつらさを受け止めて当然の存在ともいえます。けれど、老夫婦はつらさを暴力的にぶつけませんでした。何かを欲しがるということもせず優しさという代償行為で、自分の心を慰めようとしたのです。この行いにお地蔵さんは感激をし、のちに福をもたらしたと考えられます。
 この「福」というのは仏教の教えを分かりやすい形にしたものです。老夫婦が真に手に入れたのは、日本仏教の神髄である「仏性」です。自分の中にある仏になれる資格。これを雪の中でたたずむお地蔵さんと向き合うことで見つけ出したのです。これこそが昔話『笠地蔵』が伝えたい本当のメッセージではないでしょうか。これは現代でも行えることです。つらい時はお地蔵さんと向き合ってみると、今までとは違った答えが出てくるかも知れません。(コラムニスト ふじかわ陽子)

(コラムニスト ふじかわ陽子)2019-12

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