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うろ覚えの歌でも大丈夫

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(絵:吉田たつちか)

老境をむかえた家人がやっている海辺の小さなカラオケスナック。2年前のコロナの最中、前のママが目の手術経過が思わしくなく、お店を閉めると言うので、引き継いだお店だ。
 昔取った杵柄とはいえ20年ものブランクがあるうえ、年も年だからと周囲は引き留めたのだが、友人たちの支えもあって、どうにか続いている。
 必然的にママと同年代のお客様が主流で、半ば、老人介護施設のリクレーション施設のようだ。
 元気に老後を過ごすのに効果があるとの思い入れがあるのか、カラオケに果敢に挑戦する輩が少なくない。
 歌手になればよかったのにと思われるほど上手な人もいれば、昔の音楽教育環境が劣悪だったせいか、いわゆる音痴をむしろ、自慢している元気な老人もいる。
 自分の得意な歌の題名をびっしり書き込んだ小さなノートを握りしめている人もいるが、選曲の段になって、なかなか歌の題名が出てこなくて困っている人が増えてきた。
 そんな中、若手のKさんが、「スマホに向って鼻歌をうたえば歌の題名が出てくる」と教えてくれた。
 Google アプリを使用すると、歌詞を思い出せなくても曲を見つけることができる。曲のメロディーをハミングしたり、口笛で吹いたり、歌ったりすると、なんと画面に題名が現れるのだ。喉まで出かかっているのに、今一歩、歌の題名が出てこなかったのに、こんなに簡単に見付けられることに皆で喚起し、お店の中が一体化する。昭和のノスタルジーに浸ることができる。
 スマホは持ったものの電話機能しか使っていない老人が多い中、こんなスマホの使い方を知ると目が輝く。なつかしいが、うろ覚えだった歌が簡単に見つかる良い時代になったものだ。早起きは三文の得ならぬ、長生きは200円の得で、長生きが楽しくなる。

(ジャーナリスト 井上勝彦)2024-08

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