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昔の料理はおいしかった?

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(絵:そねたあゆみ)

●昔の料理は?

 私自身、なんとなく「昔の料理っていまよりおいしいのでは?」と思っていました。

 はたしてどうなのでしょう?

読者の皆様もなんとなく「昔の料理は美味しかった」と多くの人は思っているのではないでしょうか?

 その理由は

・昔食べたおふくろの味が美味しかった

・昔の食べ物はみんな新鮮だから美味しかった

・化学調味料や食品添加物を使っていないから美味しかった

 などの理由ではないでしょうか? ちょっと調べてみたいと思います。

 その前に「昔」がいつの頃かを定義しておきましょう。とりあえず日本文化が大きく変化しつつも、まだ戦前の日本文化を多く残していた1950年以前ということにしておきましょうか。

 まず「おふくろの味」、つまり家庭料理ですが、50年代の家庭料理はどのようなものだったでしょう?

 50年代、日本では都心部を除けば農家が自ら味噌を作っていました。いわゆる「手前味噌」ですね。手前(自分)で作る味噌という意味です。ジャーナリストの松永和紀さんは1963年生まれですが、著書『メディア・バイアス(光文社新書)』でご自身の母親の言葉を次のように記しています。

 「昔の味噌は塩辛くて、今の味噌のような旨味がなかった。手作りの醤油もひどくまずく、市販の醤油を食べられるようになったときには、なんておいしいことかと思った。あんなものを食べる生活にはもう二度と戻りたくない」

 味噌も醤油も日本の家庭料理にとって基本の調味料ですが、市販の商品が出回るようになるまで、美味しいとは言えなかったようです。

 さらにまだ流通が乏しかった50年代以前は、食材も少なかったのです。漁村でとれた魚は、冷蔵庫が多くなかった時代、たちまち傷んで食べられなくなります。交通網もそれほど発達していなかったので、遠くに運ぶこともできません。

 野菜の種類も多くはありませんでした。特に農村では、自分の畑でとれた野菜を漬物にするか、焼いて食べるだけで現在より野菜摂取量は少なかったのです。

 つまり新鮮な鮮魚や野菜を食べられるのは、漁村や農村のみ、でも流通が発達していませんから、種類は多くありません。

 どうも昔の料理が美味しかったかどうか疑問に思えてきました。

●昔の料理は危険だった?

 50年代、日本人はようやくサラダ、つまり生野菜を食べるということ知り始めた時代でもありました。これは人糞肥料を使っていたため、寄生虫を予防するためでもありました。

 しかし化学肥料も有機肥料も発達しておらず、農薬も普及していなかった50年代は日本人の70~80%が、子どもだと90%近くが寄生虫に侵されていました。

 寄生虫は野菜さけではなく、豚肉や魚にもいます。さらに50年代の日本人は衛生の観念が薄く、町も不潔でした。

 その時代を生きた人ならご記憶の方も多いと思いますが、市場の魚屋に行くと、ブンブンと大量に飛び回るハエをなんとかしようと、天井から何本もの蠅取りリボンが釣り下がっていたり、虫除け線香がもうもうと煙を上げていました。

 そのため、食中毒になる人も多く、毎年数多くの人が亡くなっていました。それが激減するのは、衛生観念が発達し、化学肥料が広まった60年代に入ってからです。

●昔の料理は美味しかったというのはノスタルジーか?

 などなど、いろいろ考えて行くと、どうも昔の料理が美味しかったというのは、ノスタルジーのように思えます。

 おそらく現在から過去に戻ることができたとしたら、「あれ? この程度の味だっけ?」とか「こんなに貧しかったっけ?」と思うかも知れません。

 でも考えてもみてください。その時代に生きている人にとって、そのとき美味しかったものは、確かなのです。

 我々にとってもはや過去というのは存在しないものですし、未来も存在していません。あるのはいかこの瞬間のみ。

 だったら、いまの環境でなるべく美味しいものを食べたいものですね。

(食文化研究家 巨椋修(おぐらおさむ))2019-08

おぐらおさむの漫画「まり先生の心のお薬研究室」連載をネットで無料配信、スタート

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