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世界の食文化と肥満のカンケイ

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(絵:吉田たつちか)

●肥満と食文化
 世界の肥満人口が10億人を突破し、現代社会の最も深刻な健康課題の一つとなっています。
 かつて肥満は「豊かさの象徴」であり、先進国特有の問題とされていましたが、今やその構図は劇的に変化しています。特に、日本、アメリカ、ヨーロッパという異なる食文化を持つ地域における肥満の状況と、近年顕著になっている「中低所得国における肥満の急増」という現象を比較すると、現代社会が抱える根深い問題が見えてきます。


●日米の対比:食文化の構造が生む「肥満格差」
 世界的に見て、日本は先進国の中で極めて肥満が少ない国です。一方のアメリカは、成人の約4割が肥満とされる「肥満大国」です。この圧倒的な差は、人種的な差もあるのかもしれませんが、同時に「食文化」と「食に対する価値観」が関係しているようです。
 日本の伝統的な食文化である「和食」は、お米を主食とし、魚や大豆食品、野菜、海藻などを組み合わせた「一汁三菜」が基本です。
 お米は粒のまま食べるため消化吸収が緩やかで、調理法も油をあまり使わない手法が中心です。さらに、昆布や鰹節などの「だしのうま味」をベースに味付けをするため、バターやクリーム、動物性脂肪、植物油などに頼らなくても満足感を得ることができます。
 また、小さめの器に少しずつ盛り付ける文化や、栄養バランスの取れた「お弁当」の文化も、自然と過食を防ぐブレーキとなっています。
 これに対し、アメリカの食文化は「小麦」と「肉食」が中心です。パンやパスタはバターやチーズなどの動物性脂肪と相性が良く、知らず知らずのうちに高カロリー・高脂質な食事になりがちです。さらに決定的なのは「1人前の量」の違いです。ハンバーガー一つ、コーラ一つとってもアメリカのサイズは、圧倒的に大きいのです。
 外食でも家庭でも、日本の1.5倍から2倍近い量が提供されることが珍しくなく、糖分の詰まった巨大な炭酸飲料をお代わり自由で飲む文化も根付いています。美味しさの基準が「脂肪・塩分・糖分」のパンチ力に置かれているため、脳の報酬系が刺激され、慢性的な過食を引き起こしやすい構造になっています。


●ヨーロッパの多様性:伝統と「アメリカ化」の葛藤
 ヨーロッパの肥満率は、日本よりはるかに高いものの、アメリカほど極端ではないようです。ただし、ヨーロッパは地域ごとの食文化によって状況が大きく異なります。
 例えば、イタリアやスペインなどの南欧地域には、オリーブオイルや新鮮な魚介類、野菜、全粒穀物を豊富に摂る「地中海食」の文化があります。この伝統食は肥満や心血管疾患の予防に効果的であるとして世界的に高く評価されています。また、フランスではバターやチーズを多く消費するにもかかわらず、「食事の時間を大切にし、ゆっくりと会話を楽しみながら食べる」「あまり間食せず、質の高いものを楽しむ」という独自の食の美学があり、これが肥満の抑制に寄与していると言われています。
 しかし、近年ではヨーロッパ全体で、ファストフードや加工食品の普及が進む「食のアメリカ化」が進行しており、伝統的な食文化が崩れつつある地域では、特に子どもの肥満増加が深刻な社会問題となっています。


●なぜ中低所得国に肥満が多いのか?
 これまで日米欧の食文化と肥満の関係を見てきましたが、他の地域はどうでしょうか?現在、肥満の増加率が最も高いのはアジア、アフリカ、中南米などの中低所得国です。これには「栄養不足と肥満の二重負荷」と呼ばれる、現代特有の経済的・社会的要因が背景にあります。
 第一の理由は、「安価なスナック菓子、即席麺、炭酸飲料など」の普及です。これらの中低所得国では、新鮮な野菜や果物、質の高いタンパク質は価格が高く、一般の労働者層には手が届きにくいのが現状です。 一方で、大量生産された安価で高カロリー、かつ依存性の高いジャンクフードは、急速に市場を拡大しました。つまり、「お腹を満たすために最も手軽で安い食べ物」を選んだ結果、カロリー過多で栄養不足の身体になり、肥満が誘発されているのです。
 これは日米欧といった先進国も同じで、富裕層よりも貧困層のほうが、肥満が多いのが現実です。
人類が誕生して以来、最大の恐怖は飢えることでした。それが多くの国においては、飢える人よりも肥満からくる生活習慣病に苦しむ人が増えてきたのは、なんとも皮肉な感じがします。
 幸い、日本には和食という素晴らしい食文化があり、世界中の食品を食べることができる国です。だからこそ栄養バランスに気を付けて、健康的で美味しい食事を心がけたいものですね。
(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)2026-05

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