戦国時代、勇猛揃いで知られた戦国武者の中でも、特に勇猛で名を馳せた人物に、薩摩(現鹿児島県)の島津義弘と言う人物が居ます。
この人は、あの関ヶ原の戦いのとき、味方がすべて敗走する中、敢然と敵の中央を突破して戦場を離脱することに成功したことでも知られる人物ですが、晩年はボケて自分で飯も食えなくなったそうです。
衰弱していく義弘を見て、心配した家臣たちが相談し、それならば!と、義弘の食事の時間になると、膳を用意させた上で、庭に若者を集め、ドラや鐘を打ち鳴らし、鬨の声をあげさせたところ、何と、このボケ老人のそれまで視線も定まらなかった眠たげな目がクワッと開き、おもむろに箸と茶碗を手にとるや、飯をガブガブと食べ始めたそうです。
以来、義弘の食事の時間には、毎日、この光景が繰り返されたとか。
戦国が終わった後の天下泰平、即ち太平の世というのはこの戦国を駆け抜けた老雄にとっては、ただ、退屈なだけの時間だったのかもしれません。
私も別にボケたいとは思いませんが、もしボケたなら、男としては、こう有りたいものだと思っています。
(文:小説家 池田平太郎/絵:吉田たつちか)