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『舌切り雀』に見る女の業

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(絵:そねたあゆみ)

 昔話『舌切り雀』は日本五大昔話に入るほど有名なお話。原型は鎌倉時代に成立した『宇治拾遺物語』に収録されています。そのお話は『腰折れ雀』といって、ほぼ『舌切り雀』と同じストーリー展開です。違うのは雀の腰が骨折している点と、登場人物の優しいお爺さんが優しいお婆さんだという程度。では、なぜ元々お婆さんだったのがお爺さんになったのでしょうか。それは、その方が「女の業」を表現しやすいからではないでしょうか。

 可愛い雀が出てくる昔話に「女の業」なんて意外かも知れません。しかし、優しいお爺さんと意地悪なお婆さんという夫婦を考えると、必然的に出てくるキーワードです。二人とも初めから老人ではなかったのですから。

 お婆さんはお爺さんから大切にしてもらったと考えられます。もし、お爺さんが乱暴者だったとしたら、お婆さんは卑屈になり委縮して年を重ねていったはずです。けれど、お婆さんは意地悪で欲張りで傲慢です。この性格になるには、彼女を長年甘やかした人物が必要。考えられるその人物は、お爺さんただ一人です。彼女をクソババアにしたのは、他でもないお爺さんだったのです。二人は仲睦まじかったでしょう。お婆さんが多少ワガママを言ったとしても、お爺さんが優しく包み込んだ。この平和な世界に突如現れたのが雀です。お婆さんの心は掻き乱れたに違いありません。今まで自分だけを大切にしてくれていた人が、別の女性(雀)に優しくしているのですから。しかも、自分よりも若いのです。嫉妬の炎に身を焦がして当然といえます。

 女性は年を重ねるごとに、「女としての焦り」が生じるのもの。ここに嫉妬が加わると、とてつもなく残酷なこともできてしまいます。『白雪姫』の継母もこのパターンですね。嫉妬に狂ったお婆さんは、遂に雀の舌を鋏で切ってしまいます。名目上は「洗濯糊を食べた」ことに対しての罰。でも本当の理由は、自分の平和な世界を奪おうとする侵略者への攻撃です。侵略者ですから、財宝を奪うことにもお婆さんはためらいがありません。雀のお宿から大きなつづらを持ち帰ったのも当たり前の行動です。その結果、酷い目に。行動原理が嫉妬のこの結末は、女性の業の哀しさをよく表しています。愛する人に自分だけを大切にして欲しいと願っただけ。なのに、極端な行動に走ってしまったがために起きた女の悲劇。このような側面もあるのが『舌切り雀』ではないでしょうか。

(コラムニスト ふじかわ陽子)2019-10

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