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河童伝説と水難事故

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(絵:吉田たつちか)

 あなたの街に河童伝説はないでしょうか?もしあるとしたら、河童が出現するところは水難事故が多い場所ですよ。水遊びが気持ちの良い季節、気を付けたいものです。
 昔は水難事故が起きると、事故原因に河童が関連していると考えていました。尻子玉という架空の臓器を抜いてしまうから、死んでしまうと。この「尻子玉」ですが、死後硬直が解けたあとの筋肉が緩んだ状態だと肛門が開くので、何か抜かれているように見えたのでしょう。
 現代では笑い話のようですが、当時の人は今ほど科学が発展していませんから信じていました。そして、子供に言い聞かせるのです。「ここには河童がいるから泳いではいけない」と。この教えが今にも伝わっているからこそ、河童伝説は各地に残っているのです。無碍にしないようにしたいですね。裏を返せば、水難事故から守ってくれているのは河童なのですから。
 実のところ、河童という名称は芥川龍之介の小説『河童』から一般的になったといわれ、各地で呼び方が違います。「河太郎」という呼び方も多いんですよ。大阪ではこれがなまって「がたろ」ともいわれています。
 川だけでなく海にも河童に準じた妖怪はいます。同じく水難事故に警戒するために生み出されたのでしょう。例えば、和歌山県の「甲羅法師」はその名の通り甲羅を背負った河童で、相撲好きとしても知られています。砂浜で誰彼構わず相撲に誘うのだそう。他の地方の河童も相撲好きが多いらしく、相撲を取ったという伝説が多く残っています。他にもキュウリが好きだったり、水難事故だけでなく可愛い側面も持っているのが河童といえるでしょう。このようにキャラクターが確立しているということは、それだけ人々のそばにいるからと考えられます。
 何をするのでも水は必要です。食事にも洗濯にも。日々の食卓にのぼる魚も水の中の生き物です。現代以上に水辺に人々はいました。だからこそ、河童も身近だったのでしょう。生活に溶け込んでいるから、好きなものも考えてもらえたのでしょうね。夜の闇も、人々の想像力をかきたてたのでしょう。今は夜でもコンビニエンスストアの灯りが煌々とし、闇はなくなってしまいました。それでも河童の言い伝えが残っているということは、可能性を信じたい人が多いからでしょう。人間が分かるものだけが、この地にいるわけではない。畏怖の念ともいえます。これがなくならない限り、河童は水難事故から私たちを守ってくれるはずです。

(コラムニスト ふじかわ陽子)2021-08

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