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相棒にも緊張感が必要

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(絵:吉田たつちか)

先日、起業したばかりの人が「昔からの知り合いで、とても気が合う私の片腕です」と言って、共同経営者の方を紹介してくれました。でも、世の中、こいつだけはと信頼していたやつに裏切られたと述懐するのも別に珍しくないわけで。その好例が、昔、歌手の矢沢永吉氏が、信じていた仲間に裏切られ、巨額の負債を負った事件でしょうか。
この点で、少し前に、「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」という映画がありましたよね。少年がサーカスの虎と一緒にボートで洋上を漂流するという話。いささか逆説的ですが、気を抜くと虎に食われてしまうという緊張感があったからこそ、少年は生き延びられたと思うんですね。何が言いたいか。ただの友人ならともかく、事業を一緒にやる関係であれば、名コンビは必ずしも仲良しコンビである必要はなく、虎と同様に、緊張感があったほうがいいということです。
無論、中には、ソニーの井深大と盛田昭夫のように、麗しい信頼関係の上に成り立ったケースもあったでしょうが、その盛田も、アメリカ進出時、現地採用のアメリカ人を見込んで、将来、幹部にしようといろんなノウハウを伝授していたら、あっさり、ライバル企業に移籍され、「裏切られた」と思っていたら、パーティ会場でニコニコ笑って挨拶に来たとか。まあ、これなどはお国柄の違いでしょが、自分の信頼が勝手に思い込んでいただけの一方通行だった・・・という好例ではあるわけで。また、二人同時に勇退したことで知られる本田技研の本田宗一郎と藤沢武夫の創業コンビも、在任中は、技術と経営、互いの分野で対立することもあり、ほとんど口も利かなかったらしく、マスコミは「いずれ、藤沢が本田を追い出す」と言っていたとか。深い所で繋がってはいても、実際にはそれなりに緊張感があったんでしょう。
さらに言えば、毛沢東と周恩来、スターリンとモロトフの名コンビは、必ずしも、仲良しコンビというわけではありません。むしろ、トップは本音では切りたいけど、いないと困るから粛清できない。読売新聞の事実上の創業コンビ・正力松太郎と務台光雄の関係もまさにこれで、隙あらば排除せんとする正力に対し、務台は余人に代えがたい業績を上げ続ける一方、正力を凌がぬ「さじ加減」で臨み、これを回避しています。一つには、彼らが握っていたのが、販売や外交といった「外部と関わる部署」だということもあったのでしょう。ましてや、斉の桓公と管仲、唐の太宗と魏徴、ルイ13世とリシュリューのように、元々、敵方だったのが、敗亡後、その能力を買われ、許されて名宰相となったケースでは、一歩間違うと虎に食われることにもなりかねなかったわけで。
(小説家 池田平太郎)2022-04

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