普段からお茶をよく召し上がる方の中には「やぶきた」というお茶の品種の名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
この品種は静岡県の篤農家・杉山彦三郎により選抜され、今や全国の作付面積が7割を超えるまでに普及した煎茶の超優良品種、皆さんの召し上がっているお茶の中にもかなりの割合で使用されていますので、口にしたことがある方もたくさんいらっしゃるでしょう。
それではよく耳にする「やぶきた」の名前の由来というのをご存じでしょうか?実はこの名は杉山翁により「竹藪(やぶ)を切り開いて作った茶畑の北(きた)側に生えていたから」という驚くほど単純な理由で命名されたのだそう。
数あるお茶の名前も、人の名前と同様に多くはきちんと由来があるもので、その名付けの一定の法則を知ってみるとお茶をもっと身近に感じられるかもしれません。まず一つは先の「やぶきた」のように育成の場所やその樹の特徴などから命名されるもので、例えば狭山(埼玉県)で育成され強い香りを持つ「さやまかおり」や静岡で育ち香りの優れた「香駿こうしゅん‐」などがあります。静岡の旧国名である駿河から一文字を取って[駿河の香り]の意というわけです。
他にはその品種が何のお茶用に育成されたかによる名付けもあります。「かなやみどり」など、[みどり]がつけば緑茶用品種抗アレルギー効果が期待される注目品種の「べにふうき」のように[べに]がつくなら紅茶用、と知ることができます。また、名前からその品種の性質を知ることもできます。「やぶきた」のように育つ速さが標準的な中正品種に対して、早く収穫できるものを早生(わせ)、遅いものを晩生(ばんせい・おくて)といいますが、このことを踏まえると「おおいわせ」は早く新芽が出る早生品種、「おくゆたか」は遅く芽が出る晩生品種、と読み取ることができます。
このようにお茶の品種の名は、樹の性質、特徴や、地名等を組み合わせたものが多いのです。最近は名付けも多様になり決してこれまで述べた限りではありませんが、この前飲んだ美味しいお茶がどこで生まれたどんなお茶なのか、名前の由来という新しい切り口からももっとお茶の世界に親しんでみてください。
(文:日本茶インストラクター 現庵/絵:吉田たつちか)2009-08