毎月の第1日ついたちの異称を朔日(さくじつ)といいますが、旧暦8月(新暦では9月)のついたちを特に八朔(はっさく)といって、古くから良くも悪くも重んじられてきた重要な日でありました。
この時節は稲の開花時期にあたり、古く農家ではこの日に新穂を刈り取り神に捧げたり、親戚に贈るなどして豊作を祈願する農耕儀礼が行われてきました。現在でも穂掛祭(ほかけまつり)などとして田の神に感謝する祭りが各地で行われています。
この祝いの日を「田の実の日」と言って、語感が「頼み」に通じることから転じて公家や武家、町民にまで贈答の風習が生まれたといいます。
一転して八朔は雑節のニ百十日、二百二十日と共に台風などが来襲する確立が高い天候不良の三大厄日とされていたため農家ではこの日を恐れ、また昔はこの日を境に夏の暑さを避けるための午睡を止め、方便(-たづき-)のための夜なべを始めると決まっていたため、八朔の行事に作る小豆餅を「八朔の苦餅」「八朔の泣饅頭」などと呼んだそうです。
因みに果物で蜜柑の一種のはっさくは旧暦8月1日頃から熟しはじめるとして名付けられたといいます。ものの辞書にも「甘酸っぱく、風味良好」とある季節の味覚です。
実りの秋、吉事と凶事がいちどきに訪れるとされた八朔は、紐解いてみるとそこここに名残りが感じられる古来より重要な日であったのです。
(文:コラムニスト現庵/絵:吉田たつちか)2006-09