医療現場では「風邪・水虫・癌をそれぞれ完全に治す方法を発見すれば間違いなくノーベル医学賞がとれる」とまことしやかに囁かれます。特にここで風邪といえば、誰もが幾度となく体験するありふれた病気であるにも関わらず、これを治すことができればノーベル賞がとれるとは一体どういうことなのでしょうか。
実際には「ノーベル医学賞がとれる」というのは、風邪を完全に治すことがそれだけ難しいことを意味する、医者仲間の冗談のようなものです。いわゆる「風邪」とは、専門的には「風邪症候群」と呼ばれ、その名前が示す通り、せき・鼻水などの局所症状と熱・頭痛など全身症状を示す、無数の病気の総称なのです。
風邪の原因はほとんどがウイルス、一部が細菌の感染によるものです。原因と疑われているウイルスは二百種類以上あり、それぞれの種類にさらに数百種類の型が発見されています。そのため一口に風邪と言っても数万もの原因が考えられるのです。これではウイルスの特定が困難で、ワクチンを作ることは事実上不可能です。
現場では医師の多くが解熱剤や咳止めなど、風邪の症状を和らげる薬を処方します。しかし、人体において病原体と戦う白血球は熱のある状態でこそ働きが良く、せきは病原体を排出しようとする自然な働きです。つまり、風邪の症状を和らげようとするほど、人体が病原体と戦う免疫力が下がってしまうのです。
最近では医師もビタミンCや栄養剤を処方して、本来人体に備わっている免疫力を強くすることで、風邪を治そうとすることが多くなっています。民間療法で風邪に効果があるとされる卵酒は栄養たっぷりで、果物にはビタミンCが含まれています。昔の人は免疫力が風邪を治すのだということに気がついていたのかも知れません。
風邪を治す特効薬が見つかったとしても、それは風邪を治すことしかできないでしょう。さらなる研究が待たれるのは、どんな病原体とも戦うことができて、古来から人体に備わっている免疫力の働きです。
免疫力の研究が進めば、風邪だけでなくしつこい水虫、そして多くの人が未だに苦しむ癌でさえも、完全に治せるかも知れませんね。
(現役医大生 朽木誠一郎/絵:そねたあゆみ)
2011.09