南ヨーロッパでは、正午から午後三時くらいまで商店が閉まっているのが当たり前。家に帰って昼食をとり、そのあとは軽く昼寝をしたり家族とのんびり過ごしてから、午後の仕事に戻ります。経済重視主義の現代では、大型チェーン店や中規模以上の都市ではこの習慣は消えつつありますが、今でもお昼時に南欧の小さな村を訪れると、街路には人っ子ひとりいなく、すべての店には当然のごとくシャッターが閉まり、村全体がしーんと静まり返っています。まるでそこだけ時間が止まったような、そして永遠にこの時間が続くような錯覚にとらわれます。
働き者の日本人からすると、昼の休憩時間、いわゆるシエスタは「単なる怠け癖、のんびりしすぎ」という感想を抱きがちですが、本来、人間らしい生活リズムを守る上でとても大切な習慣なのです。人間の体内リズムはもともと起床から約6時間後には疲れを感じ、休むことなしに動き続けると脳の働きが鈍くなり、集中力を失うだけでなく活動の生産性も低下します。しかし、食後にきちんと休憩をとると、消化も良くなり、脳が活性化され、午後の活動がよりはかどるのです。さらに、昼食後の睡眠のクオリティは高く、数十分でも夜の二時間分の睡眠に該当するほど深い眠りにつけるそうです。もちろん健康にも影響を与え、習慣的にシエスタを実践している人は、心臓や血管など循環器の病気にかかる確率が低いことがわかっています。
さて、南ヨーロッパの人のように何時間もシエスタの時間はとれなくても、5~10分程度の「マイクロシエスタ」を実行ことは可能ですよね。最近の研究でも、机に突っ伏して数分間眠ったり、目を閉じて休憩するだけでも、コーヒーをがぶ飲みしながらぶっ続けで活動するよりも効率がアップすることが明らかにされています。一日の真ん中で活動リズムの一時停止を押すことで、気分もリセットでき、改めてやる気も起きるでしょう。ほんの少しの休憩をムダな時間だと思わずに、そのあとの活動のための大事なひとときとみなせる余裕のある生活が理想ですね。
(コラムニスト びねくにこ/絵:そねたあゆみ)
2012-10