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パンの歴史

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(絵:そねたあゆみ)

●パンの歴史
 パンについて書こうと思います。そもそもパンというのは、穀物の粉を練り焼いたものと定義しておきましょう。
 その歴史はハッキリとはわかりませんが、中東のヨルダンで1万4千400年前の世界最古のパンの化石が発見されています。人類が農業をはじめたのが約1万年前とされていますから、それ以前の狩猟採集時代からパンは作られていたようです。
 やがて5千年前、メソポタミアで農業がはじまります。彼らが植え育てたのは小麦。当然、パンを焼き食べていました。ムギは野生種であり、それを集めて脱穀するなど大変な苦労をしたことでしょう。
 これまで農業が生まれてからパンが作られたと考えられていたのですが、近年では「人はパンが食べたいから農業をやりだしたのではないか?」と、考えられています。太古の大昔から、人類は美味しいものを食べるためなら、相当な苦労をしても構わないと思っていたのですね。
 しかしまだいまのようなふっくらとした発酵したパンは作られていません。発酵パンが作られるようになったのは、古代エジプトの時代。紀元前2500年ほど前のようです。

●世界中にあるパン
 パンは西洋だけでなく世界中に古くから存在します。インド料理屋で出てくるナン。中国の饅頭などなど。でも我々がイメージするパンはやはり西洋のパンでしょう。
 ところで『パン』という単語。英語由来の言葉ではありません。英語でパンは「ブレッド」ですから。実は「パン」という発音はポルトガルやスペインといったラテン系の言葉。
 戦国時代、多くの宣教師や商売人がポルトガルやスペインがやってきて、パンも作っていたようなのですが、日本には根付きませんでした。日本人はパンよりもやはりお米のゴハンだったのでしょう。
 明治になって欧米の文化が怒涛のごとく流れ込んできますが、いまのように食事として一般に食べるようになったのは太平洋戦争後といっていいでしょう。

●欧米におけるパン
 欧米では主食という考え方はないと言われますが、やはりパンは食事の中心。ブレット&バター(パンとバター)という言葉は「生活のための仕事」という意味。
 コンパニオンとは宴会や旅行の付添人という意味ですが、語源的には「一緒にパンを食べる仲間」という意味。
 カンパニー(会社)もコンパニオンと同じで「一緒にパンを分かち合う仲間」という意味が語源。
 フランス革命では主婦たちが「パンをよこせ」とベルサイユに行進デモをしましたが、これは日本でいうところの米騒動。
 ロシアではいまでも大切なお客様がきたとき、丸いパンと塩で歓待します。そして一緒に食事をするのはお互いに仲間であるという証し。日本でいうところの同じ釜の飯を食べた仲間というのと一緒。
 欧米においてパンは、日本におけるコメ同様、やはり特別な食べ物なのですね。

●日本人とパン
 日本に西洋のパンが入ってきたのは、安土桃山時代、つまり戦国時代です。彼らは数多くの文化を日本に残していきました。コンペイトウ、カステラ、ボーロといわれるお菓子たち。いまや日本料理を代表するテンプラも西洋由来。
 食材でいえば中南米原産地でありながら、カボチャやトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモは日本に根付きましたが、小麦粉があるにもかかわらず江戸時代にパンが日本人の食卓に出ることはありませんでした。
 明治になり木村屋がアンパンを発明。これが大当たりし、やがていまでもあるジャムパンやクリームパンも作られるようになります。パン食は主食というよりお菓子やおやつとして日本に広がっていきます。
 それが決定的に変わったのが太平洋戦争の敗戦。敗戦直後、日本は大変な食糧不足に襲われ、さらに天候不良で農作物の収穫は落ち込み政治家は「このままでは国民の1千万人が飢えと病気で亡くなる」とまでいうほどでした。
 ちなみに当時の日本人口は約7200万人ですから、7人に一人が亡くなるかも
という大ピンチだったのです。
 ちょうどそのときアメリカは大豊作で小麦等が余っていました。アメリカとしては、戦争で米軍をさんざん苦しめた日本人を親米化したいといういう思いや、将来、日本をアメリカの農産物のお客にしてしまおうという思いもあり、「アメリカ小麦戦略」を行います。パンや乳製品をほとんど無償で日本に提供、学校給食ではパンと牛乳(もしくは脱脂粉乳)が出し、食べ物の欧米化を図ったのです。
 この戦略は成功し、21世紀の現在、パンの消費量はコメを超えています。
 しかしこれはそう悪いことではなかったと思っています。なんといっても、日本人は世界でもっともいろいろな料理を食べる民族。作治はイタリアン、今日は和食、明日は洋食と、実に毎日いろいろな国の料理を食べるのです。
 こんな民族は世界でも日本だけといわれるほどです。さて、今夜は何を食べますかね?
(文:食文化研究家 巨椋修(おぐらおさむ))2019-04

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