(絵:そねたあゆみ)
●移民の国アメリカの食文化
皆さんはアメリカの食べ物といえば何を思い浮かべるでしょうか? その代表格といえば世界中で売っているマクドナルドのハンバーガーやコカ・コーラかも知れません。他にもアメリカ生まれのホットドック、ポップコーンやドーナツなんていうのもありますね。
ハンバーガーは、ドイツの移民たちが郷里のハンブルグステーキ(ハンバーグ)をパンにはさんだもの。ホットドックもドイツ系の移民がアメリカに持ち込んだもの。
ドーナツは元々オランダのお菓子ですが、アメリカに伝えたのはイギリスからアメリカに最初に渡ったといわれるピューリタン(清教徒)たち。
ポップコーンは移民ではありませんが、元々はネイティブ・アメリカンのもの。
アメリカは移民の国ですから、ありとあらゆる国の食べ物が入ってきて、独特にアメリカナイズされ、それがまた世界へと伝わっています。
●アメリカの料理は美味しい? まずい?
そのいっぽう、アメリカに旅行に行った人が口をそろえたようにいうこと。「アメリカの料理は大味でまずい!」はたしてそれは本当なのでしょうか?
もちろん、ある意味ある面では正しく、ある意味ある面ではまちがい。味覚というのは個人的なものですから。
ただアメリカの文化として、宗教性と合理性があり、これらがアメリカ人の食に大きく関係しているのには間違いないでしょう。
アメリカというのは元々ピューリタン。清教徒と訳されるだけに厳格で質素をむねとするプロテスタントの人たち。
ヨーロッパでは、カトリックのフランスやイタリアにみられるように、美食な国が多いのに対して、プロテスタントのドイツやイギリスは質素な食事で知られています。
そんな人たちが最初にアメリカに来たとき、それでなくてもまだ開拓されていないアメリカ大陸で質素な生活をし「神が与えてくださった食べ物に文句をいってはならない」という信仰心があったのです。
またアメリカといえば合理主義の国。食べ物は楽しむものというより栄養をとるものという考えから、味より栄養。そのためサプリメント大国になっています。
●缶詰、冷凍、ファストフード
それでも昔のアメリカの食卓は豊かであったようで、ウサギや七面鳥をハンティングして食べたり、農業大国であるアメリカでは多くの野菜も栽培されています。
そんなアメリカの家庭料理に大きな影響を与えたのが『食の合理化』。日持ちがよくて手早くさっと食べられる缶詰料理が発達します。例えば皆さんもご存じのアメリカのアニメ『ポパイ』はホウレンソウを食べると力が出るのですが、ポパイが食べるのは缶詰のホウレンソウです。日本ではちょっと缶詰のホウレンソウは考えられないですね。
さらに冷凍技術が発達。これも簡単に料理できてお手軽です。
アメリカで生まれたコーン・フレークなどのシリアル食品。これもピューリタンたちが白パンや肉食を不健全と考え、科学的に栄養のある食べ物として開発されました。
そしてハンバーガーやホットドックのようなファストフード(手軽さっと食べられる食事)。お手軽にさっと栄養補給できればそれでいいやというアメリカの合理主義を垣間見るようですね。
●美味しいアメリカ料理
このように書いてしまうと、いかにもアメリカ料理は美味しくなさそうに思えてしまいますが、例えばアメリカの家庭では先ほども話題に出したハンバーガーが、晩ご飯に出てくることがあります。
もちろんファストフードの場合もありますが、中には手作りで大食漢のアメリカ人も大満足するほどの大変なボリュームがあり、とても美味しいものも多いといいます。
またアメリカの料理上手なママが作った美味しいアップルパイとか、やはりアメリカにもおふくろの味があるのです。
ステーキもアメリカを代表する美味。ある日本人が「アメリカ人はスライスした牛肉を焼いただけの料理を美味しがっているが、なんと味音痴なことか」とバカにすると、そのアメリカ人から「日本人だってスライスした生の魚をライスボールに乗せただけのをスシとかいってありがたがってるじゃないか」と言い返されたという笑い話があります。
美味しい寿司を握るのが難しいように、美味しいステーキを焼くもの技術がいるのです。
アメリカの料理は日本人が食べた場合、大味に感じたり、お菓子はあまりにも甘すぎたりすることがあります。しかしそれも食文化。他の国の料理もそうですが、その土地土地の食文化をバカにするなかれですね。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2019-05