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うしおそうじの交友関係

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(絵:吉田たつちか)

 「うしおそうじ」という人物をご存知でしょうか。大正10年(1921年)、東京市芝区(現・東京都港区)の生まれで、年代によっては、人気漫画家の一人として記憶しておられる方もあるかもしれませんが、我々の世代は、「マグマ大使」や「宇宙猿人ゴリ」、「快傑ライオン丸」などの特撮の人という印象です。
 したがって、ちばてつやなどは両者が同一人物と知り、大変、驚いたそうですが、この人について特筆すべきは、その交友関係。
学校を病気中退し、初めて就職した東宝で、上司となったのが特撮の神様・円谷英二。円谷は社内では不遇な時期にあったらしく責任者と言いながら一人の部下もなく、頼めるのは学生服姿の新入社員のうしお君のみ。このため、手伝ううち、自然に特撮というものを伝授されることになったと。
 次に、徴兵され、配属された連隊で上官となった古参上等兵が日本を代表する名優・三船敏郎。三船は元々、写真館の息子であり、写真技術について、手取り足取り教えてくれたそうで、戦後氏が東宝へ戻ったら、三船も撮影技師となるべく東宝に来たが、戦後の復員で枠がなく、「枠が空いたら、撮影技師の方に引っ張るから、とりあえず、俳優の面接を受けろ」と言われ、渋々、俳優部門へ所属したことが、その後の「世界のミフネ」と呼ばれる活躍に繋がったのだとか。
 そして、戦後、生活苦から漫画家になったところ、突然、彼の家を訪ねてきたのが、漫画の神様・手塚治虫。手塚が懇意の出版社への寄稿依頼だったそうですが、二人は意気投合し、一緒に原稿を描くほど親密になったとか。で、その際、氏は手塚の描き方を見ていて驚愕したそうです。普通の人は一コマ目、二コマ目と順に終わらせていくのに対し、手塚は一コマ目を描いていたかと思うと、3コマ目を仕上げ、5コマ目に飛び、2コマ目に戻るという描き方で、それでいて、終わってみれば、完璧な原稿ができていたと。実は、私はこれと同じ光景を見たことがあります。コンピューターの製図作画ソフトCADです。今、ここを描いていたと思ったら、突然、あらぬ所を描き始め、また違う所を描いていたかと思うと、今度は最初の所に戻ったりする。それでいて、終わってみれば完璧な図面ができている・・・。
 さらに凄いのが、原稿を描いているとき、話しかけたら、手塚は顔を上げて話はするが、その間も手を休めない。話が終わると、また、原稿に視線を落とし、続きを書き始める・・・と。この話を聞いて、手塚は神かと思いましたね。
 円谷、三船、手塚・・・。いずれも、名前だけで垂涎ものですが、全部、彼の方からアクションを起こしたわけではないところが凄い話です。  

(小説家 池田平太郎)2022-01

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