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誤嚥防止にカラオケスナック

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(絵:吉田たつちか)

 高齢女性が寿司屋でたこ握りを食べて誤嚥(ごえん)により死去したと、小生の住んでいる村で話題になっている。寿司屋には特に責任はないが、田舎のこと、あることないこと尾ひれがついて伝播する。寿司屋はお気の毒としか言いようがない。
 消費者庁でも「御注意ください、高齢者の窒息事故! 」と警鐘を鳴らしている。
 平成 19 年から平成 28 年までの「人口動態調査」において、「誤嚥等の不慮の窒息」による事故は、高齢者の「不慮の事故」の中で最も死亡者数が多く、このうち約半数を「気道閉塞を生じた食物の誤嚥」が占めているという。
 特に正月は餅による窒息事故が多発するため、注意が必要だとしている。
<餅による窒息事故を防ぐために>
① 餅は小さく切っておく
② 餅を食べる前に、先にお茶や汁物を飲んで喉を潤しておく
③ 餅はよくかんで、唾液とよく混ぜ合わせてから飲み込む
と懇切ていねいに解説している。加齢と共にかむ力や飲み込む力は衰え、食品による窒息事故のリスクは高まる。
 誤嚥防止に「カラオケ」が効果があるといわれる。
「『嚥下』『発声』『呼吸』という、のどの3大機能はいずれも生命維持と深くかかわります。年齢とともにのどの機能が衰えると生活が難しくなり、健康長寿を妨げる。人間は“のどから衰える生き物”なのです」と西山耳鼻咽喉科医院理事長の西山耕一郎医師は著書の中でうったえ、命にかかわるのどの衰えを防ぐカギとなるのが「喉頭挙上筋群」、すなわち「のどぼとけの筋肉」を鍛えることで、「カラオケ」の効果をあげている。西山医師によると、「高音と低音をどちらも適度に含む曲」が最も効果があるという。
 高齢で体力の衰えを理由に友人がスナックを閉めたため、25年ぶりに引き継いでやりたいと、後期高齢者の家人がいうので、了解した。そのまま引き継いで使えると思ったが、トイレをはじめ、リフォームが必要なところが出たうえ、コロナ過で便器が入手できない、木材が高騰しているなどの問題も発生、予定より1ケ月も遅れての開店だった。半導体不足で自動車生産に遅れがでているが、便器まで中国で作っていたのかといまさらながら驚いた。
 予定より開店までの費用が嵩んだので、友人知人からのお祝いは花より団子で、瓶ビールを所望した。小さな店なので、閉店後と開店前に14ケースのビールを店の外に出したり入れたりの力仕事が小生の役目となった。肩が凝り、歯痛もでた。
ところが、2週間もこれをやり続けたら、筋力がついたのか、あまり苦にならなくなった。
 パーキンソン症を患っているTさんは、タクシーで往復する。タクシー運転手の手も煩わさなくてはならないので、決まった人を指名する。席につくとまず飲むのが薬だ。薬によって痙攣も痛みも和らぐのだという。大量に飲むビールのせいで、トイレにいくのも一苦労、体重も重いので、ここでも、小生の加勢が必要だ。大人用のおしめの着用を勧めるが、かたくなに拒否する。
 最高齢のお客はUさんで86歳。小さなノートにびっしりと曲名が書いてある。今でも新曲に挑戦しているという。店が開く4時に一番乗りで来店する。帰りはタクシーだが、来るときは歩きだ。20歳は若く見える。
 84歳の女性Sさんは、昔から歌が上手だ。昨年、ご主人を亡くしたが、かえって元気になったようで、彼女のうたうシャンソンに思わず聞きほれる。友人の多くは、亡くなったか介護施設に入っているという。施設では酒を自由に飲めないし、歌も童謡ばかりでいやだという。
 政府は介護職員の給与をあげるそうだが、実は、タクシー運転手も小さなスナックのママも介護要員なのだ。せめて、ボトル代ぐらい、介護保険の対象になっても罰はあたるまい。元気に長生きの高齢者のお役に少しでもお役に立つならば、後期高齢者がスナック開店するのも無駄ではあるまい。
*海辺のカラオケスナック 小恋路(オレンジ)
//ito-usami.info/orange
(ジャーナリスト 井上勝彦)2022-01

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