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大男だった福沢諭吉

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絵:そねたあゆみ

 「幕末維新の人物で今、もっとも認知度が高いのは誰でしょう?」と先日、講演の際に質問したところ、大体、出た答えは「坂本龍馬」「西郷隆盛」でしたが、それは正解とは言えません。「もっとも人気が高い」ではそうかもしれませんが、「認知度」となると、毎日、色々な場面で目撃されているあの人の独壇場でしょう。そう、1万円札の顔、福沢諭吉です。その福沢さんですが、実は意外に知られていないのですが、実は結構な大男で、今で言うなら190cm、90kg。

 ただ、実際の身長は46歳の時点で、173cm、70kgだったそうですから、そう言うと、「何だ、大したことないじゃない」と思われるかもしれません。が、まず、江戸時代の日本人男性の平均身長が157.1cmだそうですから、単純に、今の平均身長170cmにその差の16cmを足しただけで186cmになるわけで、かつ、当時の46歳は既に高齢ですから若い頃はもう少し高かったでしょう。まあ、細かい誤差はともかく、いずれにしても、当時としては堂々たる偉丈夫だったことには違いないわけです。

 で、ここで疑問なのが、福沢諭吉は天保5年(1835年)生まれなので、江戸時代に前半生を送った人。そもそも、そんな時代に平均身長なんてデータがあったのかと。しかも、157.1cmと小数点以下まで明示するような。実は、私もこの点が疑問だったので、友人の考古学者に尋ねてみたのですが、すると、どうやらあるみたいですね。東京で、江戸時代の庶民の墓から、かなりまとまった数の遺骨が出たようで、遺骨の足骨を図ると概ねその人の身長に比例するらしく、かなり信用するに足る平均身長のデータがとれたと。

 ここで、再び質問です。日本人男性の平均身長が160cmを超えたのはいつ頃でしょうか?実は、これも意外に最近で戦後なんですね。昭和25年(1950)の20歳男子平均で、161.5 cm、55.3 kgというデータがあるそうで、つまり、江戸時代と明治、大正の人はあまり、変わらなかったということです。そういえば、明治生まれだった私の祖父も昔の人にしては随分と長身だったようですが、それでも実際の身長は174cm。遺品のスーツは今のちょうど平均である170cmの私が着てちょうどいいくらいです。

 で、以前、昭和30年代のプロ野球選手の名鑑を見ていたところ、意外に目についたのが173~4cmという数字。今のプロ野球選手は平均身長「180cm」といいますから、やはり、「プロ野球選手も小さかったんだ」と。で、ふと思いました。長身で有名だった坂本龍馬や西郷隆盛も実際のところは173~4cm程度だったそうですから、平均身長が160cmに満たない時代、173~4というのは、日本人が大きくなる一つの壁だったのではないかと。 (小説家 池田平太郎)2017-08

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