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人類史を変えたトウモロコシの過去・現代・未来

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(絵:吉田たつちか)

 スーパーの野菜売り場や夏祭りの屋台など、どこにでも顔を出すトウモロコシ。黄色くて、甘くて、子どもにも人気のあの穀物ですが、実は人類の歴史を大きく左右してきたスーパースターだということをご存じでしょうか。
 一見すると、ただのトウモロコシ。でもその存在がなければ、世界の地図も文化も、もしかしたら戦争の行方すら変わっていたかもしれないのです。


●過去:トウモロコシと文明の誕生
 トウモロコシの起源は、約9000年前の中央アメリカのメキシコ南部あたりにさかのぼります。もともとは「テオシント」という野生の草だったものを、何世代にもわたって人間が改良し、現在のような粒がギッシリ詰まった食べごたえのある姿になりました。
 これが文明の起爆剤となりました。マヤ文明やアステカ文明など、中央アメリカに栄えた高度な社会は、トウモロコシなくして成立しなかったと言われています。主食として安定した食糧供給を可能にし、人口の増加と都市の発展を支えたのです。
 また、トウモロコシは神聖な植物でもあり、アステカの神話では「人間はトウモロコシから生まれた」とまで語られています。つまり、トウモロコシは彼らにとっての命の源だったわけです。
もしここでトウモロコシがなかったら? マヤもアステカも、ただの村落に終わっていたかもしれませんし、アメリカ大陸の歴史そのものが数千年スローモーションだった可能性すらあります。ヨーロッパにおけるムギ、東アジアにおけるコメ、アメリカ大陸におけるトウモロコシという穀物がなければ、人類はいまのように発展できなかったでしょう。


●現在:世界を支配するコーンパワー
トウモロコシは現在、世界で最も生産されている穀物のひとつです。特にアメリカ合衆国では、農地の3割以上がトウモロコシ畑。
さらに、トウモロコシは食品だけでなく、工業製品や燃料にも使われています。お菓子に入っているブドウ糖やコーンシロップ、バイオエタノールといった形で、私たちの生活のあちこちに顔を出しているのです。
 実際、ある経済学者は「現代アメリカ人の体はトウモロコシでできている」とすら言っています。ジャンクフード、炭酸飲料、冷凍食品――それらの原材料の多くが、巡り巡ってトウモロコシにたどり着くのです。逆に考えてみましょう。もしトウモロコシがなかったら? 世界の食糧供給はもっと不安定だったでしょうし、畜産業のコストも大幅に上がっていたはずです。ハンバーガーもチキンナゲットも、もっと高級品だったかもしれません。
 ハンバーガーやチキンナゲットとトウモロコシは肉やコムギだからトウモロコシは関係ないだろですって?
 家畜を早く大きく育てるためには、トウモロコシは欠かせない飼料なんです。我々が気軽に玉子やトンカツを食べることができるのも、トウモロコシのおかげと言っていいくらいです。

●未来:救世主か?
 これからの未来、トウモロコシの立場はますます重要になるかもしれません。一つは、バイオ燃料としての役割です。地球温暖化の対策として、再生可能エネルギーが注目される中、トウモロコシから作るバイオエタノールはその筆頭株です。
 もう一つは、人口増加に対応するための食糧源として。小麦や米と違って、乾燥にも比較的強く、遺伝子組み換え技術とも相性がよいため、将来の飢餓対策としても期待されています。
 ただし、課題もあります。あまりにもトウモロコシに依存しすぎると、生物多様性が失われたり、農業の一極集中によって病害虫のリスクが高まったりする危険性もあります。現代の「コーン経済」は、便利で効率的ではありますが、その裏側には環境負荷や健康リスクといった課題も潜んでいるのです。


●もしトウモロコシがなかったら?
 ここで改めて問い直しましょう。もし人類の歴史にトウモロコシが存在しなかったら、どうなっていたでしょうか?
 まず、アメリカ大陸の文明は成立しなかったかもしれません。ヨーロッパの大航海時代以降、トウモロコシはアジアやアフリカにも伝わり、飢饉を救った地域も少なくありません。それがなければ、歴史は飢えと戦争でもっと混沌としていたかもしれません。
 さらに現代。ファーストフードもコーンスナックも存在せず、エネルギー問題はさらに深刻だったことでしょう。たかがコーンと思うなかれ。今日もありがたく食べ物をいただきましょう。

(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究所)2025-06

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