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鍋料理という日本の食文化

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(絵:吉田たつちか)

●縄文時代からあった鍋料理
 「鍋料理」が恋しい季節がやってきました。家族や友達とひとつの鍋を囲む時間は、日本の冬の風物詩ともいえます。でも、この「鍋」、歴史をたどると昔からただの食事以上の役割を担ってきたんです。
 古くは縄文時代、土器を使って煮炊きをする調理法が生まれました。これが鍋料理のルーツといわれています。土器を使うことで、硬いドングリなどの木の実や、なかなか生では食べにくい根菜、肉・魚などの食材を煮込むことで柔らかくし、消化や栄養吸収を助けたと考えられています。
 ただし当時は、一つの鍋をみんなでつつく文化ではなく、基本的に料理は各自に取り分けて食べていたと考えられています。鍋を皆で囲む、という今のスタイルが広まるのは、意外と新しく幕末から明治時代になってからの話なのです。
●江戸時代に花開いた鍋料理
 さて、中世から江戸時代にかけて、鍋料理はさらに発展します。有名なものを挙げると、いろいろな具材を寄せ集めた「寄せ鍋」、鍋の内側に土手のように味噌を塗った「どて鍋」などが登場します。江戸時代の庶民にとって、鍋は「何でも放り込めばおいしくなる節約料理」であり、特別な調味料がなくても素材の旨味だけで満足できる料理だったのです。
 また鍋料理のもう一つの魅力が、「地域ごとの個性」です。例えば、みそ文化が強い東日本ではみそ仕立ての鍋が親しまれ、一方、出汁(だし)やつゆにこだわる西日本では、シンプルなだしを生かした鍋が多いといわれています。
 各地の鍋としては、東日本の「きりたんぽ鍋(秋田)」「ほうとう(山梨)」、西日本の「湯豆腐(京都)」「鶏水炊き(福岡)」など、その土地ならではの食材と風習が詰まっています。
●明治時代にすき焼き登場 そして鍋を囲む習慣の普及
 明治時代になると、日本の食事風景が変わってきます。まず洋食が入ってきます。これまでの日本人には「食卓を囲む」ということがありませんでした。囲むような食卓がなかったからです。江戸時代までの日本人は、食事を一人用のお膳で食べていました。テーブルはもちろんありません。
 テレビや映画の時代劇だと、居酒屋でテーブルが出てくることがありますが、これは後世の創作。座敷で個人用のお膳で飲み食いするか、縁台やベンチのような床几台に座って、料理やお酒は横に置いて飲み
鍋料理という日本の食文化食いしていたのです。
 よってお鍋を食べるときも、一人かせいぜい二人で食べる直径20センチぐらいの「小鍋」で七輪や火鉢で食べていたようです。
 やがて明治時代となり牛肉が一般化し、牛鍋ブームが全国に広がります。このあたりから土鍋や鉄鍋が普及、ちゃぶ台や長崎の卓袱料理(中国から伝わり発展した、大皿に盛られた料理を皆で取り分けて食べる形式)など、一つの器や鍋から料理をいただく文化が広がり始めたことも、皆で鍋を囲むスタイルが定着の一因となりました。
 またこの時代、横綱・常陸山が活躍した頃に出羽海部屋の入門者が急増し、それまでの個別配膳では準備や配膳に膨大な手間がかかるようになり、一度に大量に作ることができ、栄養バランスも良い鍋料理が日常食として取り入れられました。 これが「ちゃんこ鍋」の発祥なのですが、この「ちゃんこ鍋」の普及もみんなで鍋をつつく鍋文化に関係しているようです。
●昭和~令和、様々な鍋の登場
 さらに昭和後期になると、土鍋の普及、ガスコンロの誕生、スーパーの具材セットなどにより、家庭でも気軽に楽しめる料理として確立しました。鍋はテーブルの上で完成していく“ライブ感”が特徴で、家族団らんの象徴として人気が高まりました。
 そして現代。鍋料理はますます多様化しています。キムチ鍋、トマト鍋、豆乳鍋、カレー鍋など、海外の味が融合した「創作鍋」が登場し、鍋つゆのバリエーションは毎年のように増えています。
 最近では、一人用の「おひとりさま鍋」を楽しむ人も増え、鍋のスタイルはさらに自由になりました。外食でも、居酒屋や専門店で個性あふれる鍋が楽しめますよね。
 鍋料理は、単に「身体を温める料理」ではありません。家族や仲間と鍋を囲むことで自然と会話が弾む、コミュニケーションの中心でもあります。「この具もう食べていい?」「次これ入れよう!」なんていうやり取りも含めて、鍋の魅力だと思います。
 また、最近では健康面でも注目されています。野菜・魚・肉など栄養バランスが取りやすく、調理もシンプル。洗い物も少なくて済むというメリットまで…! 現代の忙しい生活にもぴったりな料理なのです。
気候や生活が変わっても、日本の食卓に鍋があり続ける理由は、きっと「みんなで共有する温かさ」にあるのでしょう。変化しながら受け継がれてきた鍋文化は、この先も末永く愛され続けるはずです。(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)

 (巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)2026-01

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