日本人がヨウ素欠乏症にならないで済んでいるのは、ヨウ素を豊富に含む海藻類を日常的に摂取しているからです。実は、欠乏症にはならない反面、日本人は過剰症に陥る可能性があり、昨年、従来の上限値であった1日3mgから2mgへと厳格化されました。この許容上限量は、1日でもこの数値を超えたら直ちに健康危害があるというものではなく、長期に亘ってこの量を超えて摂取した場合に問題となる可能性も捨てきれないという程度のもので余り神経質になる必要はないようです。しかし、コンブについては他の海藻類と比較しても圧倒的に大量のヨウ素が含まれていますので、日常的にコンブを多食することは避けた方がよさそうです。
<主な海藻類のヨウ素含有量>
コンブ(乾) 100~300mg/100g
ヒジキ(乾) 20~ 60mg/100g
ワカメ(乾) 7~ 24mg/100g
上記の含有量から換算すると昆布の場合、数g程度摂取しただけでもすぐに上限値に達してしまいますので、昆布好きの方なら上限値を超える量を摂取している場合もあるのではないかと思います。しかし、これまで、ヨウ素過剰症がそれほど大きな問題になっていないのは、他の食品との組み合わせがよかったからではないかといわれています。例えば、大豆に含まれるサポニンなどはヨウ素の吸収を抑える働きがあります。日本の伝統的定番料理である「湯豆腐に昆布だし」とか「煮豆に昆布」、「味噌汁にワカメ」などは、まさに絶妙の組み合わせであったようです。つまり、大豆製品は海藻類によるヨウ素過剰症を防ぎ、逆に海藻類は大豆製品によって引き起こされるかも知れないヨウ素欠乏症を防ぐことに貢献していたのではないかと考えられるのです。その他にも、キャベツやカブなどのアブラナ科植物、タケノコなどには体内でのヨウ素の利用を低下させてヨウ素過剰症を防ぐと考えられるゴイトロゲンという成分が含まれています。
このように、日頃の食事は、いろいろな成分を同時に摂取するために、お互いに干渉しあって個々の成分の持つ効果が半減される可能性がある半面、健康危害のリスクも低減されるメリットがあるようです。一方、効能を追求して、有効成分を濃縮したり精製した健康食品は効果も期待されますが、その代わりに毒性も現れやすくなることが推察されます。健康食品を利用する場合には過剰症の恐れがあることを常に頭の片隅において、摂取量には十分気をつけたいものです。
ヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、甲状腺中毒症などが起こることがあります。この他、体重減少、頻脈筋力低下、皮膚熱感などの症状が見られることもあります。しかし、日本人は、その伝統的食習慣のために耐性があるようで、ヨウ素の過剰摂取に対する影響は出にくいと言われています。
(医学博士 食品保健指導士 中本屋 幸永/絵:吉田たつちか)
2011-05