かつて、私が師と仰ぐ元帝国陸軍参謀で兵法評論家の故大橋武夫氏は、その著書の中で戦前、ある中国の古老から言われた言葉として、「日本人は皆、儲けを7割方持って行こうとするが、逆に、『あの人は儲けさせてくれる』という評判が立てば、多くの人が儲け話を持ってくるようになり、結果、3割の儲けでも、3人が持ってくれば9割となるわけで、より大きな利益が確保できる」というのを挙げておられました。
まあ、現実社会では、7割獲れる相手からは8割獲ろうとしてくるし、厳しい要求をしていないと逆に足元を見てくる・・・ということがあるのも事実で、なかなか、この通りには行かないが、考えさせられる話ではあります。
よくよく考えて見れば、元手が不要で確実に儲かる話なら、誰も、他人に持っていくことはないわけで自分でやるもしくは買って手元に置いて将来の値上がりを待つ、あるいは秘蔵するのでしょうが、それが出来ないから人の所へ持っていくわけですよね。
つまり、「将来、儲かるけど、まずは自分では出せないくらいの元手がいる」・・・という場合などに、人が考えるのは「元手に相当する額を借りてくる」か、それが出来ないなら、「買える人の所へ持ち込んで手数料なり、販売益なりを得る」ということでしょう。
後者の場合、そういう話を持って行くには、まず、「最初から、買えそうにない人」の所へは持っていかないわけで、「ぎりぎり買えるけど、買うのに、清水の舞台から飛び降りるような判断をしなければならない人」の所もなるべく避けたい・・・と。
美味しい話が行く所は、①「買えるだけの資力がある」②「買うかどうか結論がすぐ出る」③「言い値で買ってくれる」の三要素を満たした人ということになるでしょう。
現実には下から順に要素を満たしている人から話を持っていく・・・ということになるのでしょうが、もっとも、その三要素を一番最後まで満たす人・・・というのは、つまり、それくらいの大きな買い物をすることにそれほど抵抗がない人・・・ということであり、平たく言えば、庶民とは為替レートが二桁も三桁も違っている人ということになるわけですね。
この点、よく、世上には、「美味い話はないか?」、「お買い得物件が出たら・・・」などと言う人が居ますが、いくら「買う気」があっても・・・と思わなくもないような気も。ま、いずれにしても、飲み屋の請求書如きで青息吐息の私には関係ない話ですね。
(小説家 池田平太郎/絵:吉田たつちか)2010-04