アリのマークの引越社があるように、働くアリは常に汗を出して一生懸命働く象徴のように思われているが、このほど、北海道大の長谷川准教授らのチームが英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した「働かないアリがいるからこそアリのコロニーがうまくいっている」という論文が話題を集めている。
「働かないアリだけを集めて観察してみると働くアリが現れ、逆に働くアリだけにすると働かないアリが現れることも分かった」という。 チームは、様々な働き方のアリの集団をコンピューターで模擬的に作成、どの集団が長く存続するかを調べた。その結果、働き方が均一な集団よりも、バラバラの集団の方が長く存続した。働くアリが疲れて動けなくなった時に、普段は働かないアリが代わりに働き始めるためだ。
これは良いニュースだと喜んでいる輩が少なからずいる筈だ。実は私もその一人で、怠惰な自由人がいてこそ社会がうまくいくと思っている。
労働生産性の分野で標準作業時間というのがある。標準作業時間は作業標準時間と準備標準時間からなり、作業標準時間は正味作業時間と余裕時間からなる。さらに余裕時間を分類すると作業余裕、職場余裕、用達余裕(汗ぬぐい、水飲み、用便)、疲れ余裕(休憩)となる。すなわち、余裕時間はサボりの時間ではなく、時折休んだ方が、全体の作業生産性はむしろ上がるという概念だ。
スマホやパソコンを長時間使い続けている人が多いが、時々目を離して遠くを見るなどしたほうがいい。最近は、階下にものを取りに行くと、何を取りに来たのか忘れて戻ることが多々ある。ボケが進んだのかとマイナスに考えていたが、これからは、忘れることも無駄ではないのだとプラス思考で行くことにした。
学問などでも同じことで、最近は、実利的な研究だけがもてはやされている傾向があるが、哲学や文学など、一見役に立たないようなものが、本当はとても社会にとって役立っている筈だ。100年後500年後に役立つかもしれない地道な基礎研究も大切ではある。
(ジャーナリスト 井上勝彦)