(絵:そねたあゆみ)
浪曲師の三波春夫氏が言った「お客様は神様です」という言葉を耳にされたことは、日本に住む方ならある筈です。これは、お客様を神様のように持ち上げるということでなく、神様の前に立つ時のように心から雑念を追い払い澄み切らせるという意味です。三波春夫氏にとって、芸を昇華させるのに必要な心構えだったのでしょう。神道の国、日本ならではの考えです。
では、神道における神様とはいったい何なのでしょう?神道は原始宗教の色合いが濃い自然崇拝の宗教です。つまり、自然こそが神様なのです。もちろん、人間も自然の一部です。ですから、三波春夫氏が言った言葉は、とても神道的なのです。お互いがお互いを神様のように尊重し合う為、外国から見ると礼儀正しい民族に見えるでしょう。
ところが、自分だけが神様のように振る舞う人が増えているように感じます。世界中から様々な宗教や文化が流入し、迷う気持ちは分かります。それでも、お互いを尊重し合う神道の考えは、生きる上でトラブルの少ない考え方です。この土台があってこそ、他の文化も楽しめるのではないでしょうか。
また、この考え方があったからこそ、日本は大いに発展しました。相手に敬意を払えるから、謙虚に学ぶことが出来ます。謙虚と卑屈は大いに違います。謙虚とは己を知った上で伸びようとする力です。相手から学び、自分の中で昇華させた上で、新しいモノを作る。これが、日本発展の原動力です。
昨今、留学生や旅行者、労働者が日本に多く訪れるようになりました。彼らにも、可能であれば、神道の考えに少し触れてもらえたらと思います。何故、先進国の中で日本は群を抜き犯罪発生率が低いのか、戦後の焼け野原から奇跡的な復活を成し遂げたのか、理解していただけるでしょう。同時に、日本人も今一度、神道を見直すべきです。お互いを尊重し合う文化だけは、廃れてはならないものです。今後、ますます発展していく為にも必要ではないでしょうか。グローバル化社会だからこそ、忘れてはならない日本の心を大切にしたいものです。(講談師/コラムニスト 旭堂花鱗)2018-02