(絵:吉田たつちか)
東アジア、東南アジアは箸の食文化の地域ですが、とりわけ日本は、お箸に特化した民族です。日本人は生まれて100日たつと「お食い初め」でお箸を使う儀式を行い、亡くなるとお骨をお箸でお骨を拾い、お供えのご飯はお箸を立てて供養をします。
まさにゆりかごから天国まで、お箸と付き合っていくのが日本人。
なんでも「はし」という言葉は、人間と神様を「橋渡し」する意味もあるんだとか。さらに箸文化圏でも、「自分専用のお箸」を持つのは、日本のみの食文化です。
これは日本独特の宗教的心理から来ているらしく、他人が使ったお箸を使うと、どうも「穢れ」のようなものを感じる精神性があるようなのです。不思議なもので、おなじ食器であるレンゲやナイフ、フォークにはその感覚はありません。
「他人が使ったお箸を使うと何か気持ちが悪い」この感覚が、使い捨ての割り箸を生んだのかもしれませんね。
割り箸の発祥は諸説あるのですが、古くは南北朝時代にあったという説があります。しかし一般人が使うようになったのは、江戸時代の終わりころとされ、全国的に使われるようになったのは、機械化で大量生産ができるようになった大正時代以降。庶民が気軽に使うようになったのは、戦後になってからと言われています。
江戸時代の割り箸は、まず高級料理屋で使われ、使い捨てにはせず、表面を削りなおしてから蕎麦屋などでお箸として使い、それでも捨てずに回収して、漆を上塗りして大衆店で使ったといいますから、かなりエコだったようです。
そんな割り箸ですが、近年になってから、割り箸の大量消費は、森林伐採などの環境破壊になるのではないか? と言われるようになり、環境意識が高い人の中には「マイ箸」を持ち歩く人も出てきました。
まず、日本製の割り箸ですが、間伐材(森林を育てるために間引かれた木)を利用しているので、むしろ環境に良いそうです。ただ日本製はお値段が高い。
一方、外国製の安い割り箸は、原木が安いため伐採した木を使うそうなのですが、はたして割り箸が環境破壊につながっているかどうかは、諸説あってちょっと不明。そして割り箸の97%が外国製で、そのほとんどが中国製だそうです。ただ漂白剤や防カビ剤を使っていることもあるそうな。
どうも、環境というのを考えた場合、多少お値段が高くても日本製の割り箸使うと言うのがベストかもしれません。
日本の割り箸業者は外国産割り箸との価格競争に負けて、激減しており、割り箸業者がなくなってしまうと言うことは、間伐材を使う業者がいなくなるということであり、森が荒れてしまうおそれがあるからです。
日本は、東アジア・東南アジアの箸文化圏の中でも、特にお箸を食事のときに使う食文化を持っています。例えばお隣の韓国では、ご飯も汁物もお箸ではなくスプーンを使って食べます。韓国にも中国にも夫婦箸や子ども用の箸はありません。韓国ではお箸は木製ではなく金属製です。
中国も韓国もお箸とスプーンがセットですが、日本ではお箸だけ。
このように日本はお箸に特化した食文化。割り箸も日本生まれの食文化ですから、大切にしていきたいものですね。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2021-05