(絵:吉田たつちか)
世界には歴史に強い影響を与えた宗教家がいます。そんな聖人たちはどのような食べ物エピソードがあったのでしょうか?
イエス・キリストと釈迦のエピソードを紹介しましょう。新約聖書を読むと、イエスという人は決して禁欲的ではなく、むしろ宴会好きでお酒大好きであったことが記されています。
イエスが人々にどう言われていたかというと、マタイの福音書11章に「人の子(イエスのこと)がきて、食べたり飲んだりしていると、見よ、あれは食をむさぼる者大酒を飲む者」と書かれています。
またイエスが最初に起こした奇跡として、ある結婚式でワインが切れてしまったとき、イエスは大勢の客のためにただの水を上等のワインを変えてしまうということもありました。(ヨハネの福音書2章)
食べ物のエピソードとして、空腹を覚えたイエスがいちじくの木のところに行ったら、実が成っていません。そのとき腹を立てたのか、奇跡を起こしてたちまち枯らしてしまいます。ちなみにマルコの福音書11章によると実の成る季節ではなかったからだとか。
どうせ奇跡を起こすのなら、枯らすのではなく、実を成らせたほうがいいのでは? と思うのですが、聖なる人の気持ちはわかりません。
当時のユダヤ人(イエスはユダヤ人です)は、ひずめが割れていない動物や反芻しない動物、ヒレやウロコがない魚を食べることはタブーでしたので、タコ、イカ、ナマズ、ウナギも食べたことはなかったことでしょう。
ユダヤではブタは穢れた動物とされていましたので、食べなかったでしょう。
ちなみに「豚に真珠」ということわざは、イエスが語った言葉です。
次にお釈迦様。よく仏教では肉食を禁止していると思われていますが、少なくとも釈迦は菜食主義者ではありませんでした。というのも釈迦と弟子たちは、托鉢に家々を周り、食料などの施しを受けて生活をしていたのです。
人々からいただいた大切な食料を、無駄にするわけもなく、そして当時の人々も釈迦も弟子も、肉食への偏見というものはなかったようです。
釈迦たちは提供された食事は何でも食べていたらしく仏教が肉食をタブーとするようになったのは、仏教が中国に伝わり、大乗仏教になってからと考えられています。
釈迦は80歳でこの世を去りますが、釈迦の晩年を描いた経典『涅槃経』によると、信者のチュンダが提供した「スーカラ・マッダヴァ」という料理を食べた後、具合が悪くなって亡くなります。
この「スーカラ・マッダヴァ」のスーカラはブタという意味、「マッダヴァ」は「柔らかい」という意味ですから「やわらかい豚肉料理」を食べて食中毒を起こしたのではないか? と言われています。
また他の説では毒キノコに当たってしまったというものもありますが、釈迦の死因はよくわかっていません。
釈迦が悟りを開いたのは、悟ることができず苦しんでいたとき、スジャータという村娘が持ってきた「ミルク粥」を食べたところ、力がみなぎり、菩提樹の下で大覚(だいかく)したといいます。偉大な聖人の皆様も、いろいろな食べ物エピソードを残しているのですね。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2022-06