(絵:吉田たつちか)
中世ヨーロッパというと、日本人は豪華な王宮、毎日開かれる華麗な舞踏会、そして豪華な食事風景、庶民たちは毎日おいしいパンやお肉を食べているイメージがあるのではないでしょうか?
しかし現実はそんな甘いものではありませんでした。中世ヨーロッパとは5世紀から15世紀までの時代ですが、この場合14世紀くらいの時代としておきましょう。
この時代のヨーロッパはすごく貧しかったのです。当時の世界覇権国は中華帝国とイスラム帝国でした。その当時ヨーロッパはそういった帝国から「野蛮国」とみなされていたのです。
庶民はほとんど肉を食べることはできませんでした。中世初期はヨーロッパにはまだ森林が多く、狩りに行って獣を取ることができましたが、森林を牧場にするなど開拓が進むと、領主や貴族は自分たちの森林にいる獲物を守るため、領民が森に入るのを禁止しました。
領主や貴族は肉を食べることはできましたが、その頃の肉の保存法は「塩漬け」や「干し肉」といった方法しかなく、ヨーロッパでは家畜が冬を越すだけの牧草を備蓄することが出来ないため、家畜を繁殖用以外は全て冬になる前に肉に保存加工していたのです
しかしいかに保存加工しているとはいえ、春になる前くらいになると傷みだしますが、多少へんな匂いがしても食べていたようです。
そのため、嫌な匂いを消すコショウなどスパイスが富裕層に好まれ、ホントかウソかコショウは金や銀と同じ重さの値段で取引されたなんて話もあるくらいです。
大航海時代、ヨーロッパの人々はスパイスを求めて、海路インドに向かいました。中間にあるイスラム帝国から輸入すると高い関税が取られたからです。
さて、領主さまや貴族さまでもそんな肉しか食べられないのなら、庶民はどんなものを食べていたのかというと、ライ麦や雑穀を煮たお粥や、ライ麦で作った黒パン。
いまでこそライ麦パンなどというと健康食なんて言われておりますが、当時のものは乳酸菌が多く酸っぱく、固いビスケットのようなものを食べていました。
肉なんてメッタに食べられないので、豆と野菜のスープ。固いパンはスープにつけて柔らかくして食べていたようです。
ちなみに当時の貴族は野菜のような地面に近いところにあるものは卑しい食べ物と考え、あまり食べなかったようです。
また14世紀だと、スプーンもフォークもありません。ヨーロッパにスプーンやフォークが広まるのは17世紀からで、14世紀当時は料理を手づかみで食べ、汚れた手はテーブルナプキンで拭き、ナプキンがなければ指をしゃぶっていたといいます。
いくらナプキンで拭いても不衛生であることに変わりはなく、そのためコレラや赤痢などの伝染病の原因となったようです。
そして飲み物は水よりもワインかビール。
ヨーロッパは水の質が悪くまた不衛生であり、良質の飲み水はワインやビールより値段が高かったのです。その点ワインやビールは値段も安く、醸造過程で除菌され安全。
よって水よりも健康的なワインやビールを子どものころから飲んでいました。
フランスなどでは1950年代まで学校給食にワインが提供されていたのはこの伝統でしょう。
今回は中世ヨーロッパの食事にスポットライトをあててみました。
この時代は日本でいうと鎌倉時代後期から室町時代初期です。中世ヨーロッパだけでなく、日本も決して豊かな食事をしていたわけではありません。
結局、人類が本当に豊かになったのは20世紀後半になってから。いや~、昔に生まれなくて本当に良かったと思うばかりです。
(文:巨椋修(おぐらおさむ) 食文化研究家)2023-022