●ハンバーグの原点はモンゴル帝国
いまや世界中の人たちに愛されているハンバーガーとハンバーグ。その原点はどこかご存じでしょうか? ドイツのハンブルグ地方というのは間違いではありませんが、その前があるのです。
それはかつてユーラシア大陸のほとんどを支配したモンゴル帝国。
モンゴル帝国はいまのロシアやウクライナ地方を侵略しました。ヨーロッパ人は彼らモンゴル人をタタール人という名称で恐れおののいたといいます。
タタール人(モンゴル人)は騎馬民族です。馬は彼らにとって、移動手段であり、戦争における武器であり、そして貴重な食料でした。
タタール人は戦闘用の固い馬肉を叩いて細かくミンチにして、中央アジア原産のタマネギなどを混ぜ込みステーキにしました。それがタルタル(タタール)ステーキです。
ステーキといっても、馬肉ですから日本の馬刺し同様焼きません。生肉のまま食べていました。それが17世紀ごろドイツの港町ハンブルグに伝わり、タルタルステーキを焼いて食べるようになりました。
ハンブルグはニューヨークと航路でつながっています。ヨーロッパ人たち、とくにドイツ人たちは、焼いたタルタルステーキをアメリカに伝えました。その料理はハンブルグ風ステーキ、やがてハンバーグステーキと呼ばれるようになったのです。
●全米にハンバーグを広めた挽肉器
アメリカに来てハンバーグステーキとなったこの料理ですが、肉は上等の部位ではなくクズ肉・スジ肉や、内臓肉など安価な肉を混ぜ込んで使っていましたから、値段は安いのです。でも肉屋さんにとって肉を細かくミンチにするのは重労働。
そんなとき1876年、アメリカ独立百周年記念のフィラデルフィア万国博覧会で、手回し式の『挽肉器』が公開。
全米に挽肉器が一気に広がります。同時にハンバーグも広がります。
またアメリカ人たちが考案したトマトケチャップがハンバーグやハンバーガーに良く合いました。
時代は19世紀、アメリカにも産業革命の波が押し寄せてきていました。
●労働者が手軽に食べられるファーストフード、ハンバーガー
産業革命が人類におよぼした影響の一つに「決まった時間が来たら出勤する。決まった時間に休む。決まった時間がきたら帰る」という時間に支配される時代が到来したのです。
当時、アメリカの工場労働者は「30~60分以内に昼休み。その間に昼食をとる」というものでした。30分で食事と休憩。かなり慌ただしいですね。
そこで、工場などの近くの道路に手軽に食べられるホットドックやハンバーガーの屋台が現れます。ファーストフードのはじまりです。21世紀になった現在人も、いまだ時間に支配され続けているようですね。
ちなみにハンバーガーの起源としては屋台で生まれたという説以外に、ハンブルグ港からアメリカに向かう船の中で、船員たちがハンブルグ風ステーキにパンを挟んで食べたのが最初という説もあります。
●日本におけるハンバーガーの歴史
日本にハンバーグステーキが入ってきたのは幕末から明治時代にかけてなのですが、ハンバーグは日本人にも食べやすかったらしく、大正時代には家庭で作る人が出てきました。おそらく一部の上流階級の人たちでしょう。というのは、当時の一般家庭には、まだフライパンが普及していなかったからです。 フライパンが普及するのは太平洋戦争で日本が負けてからなのです。
ではハンバーガーはというと、敗戦後アメリカ文化が急速急激に入ってきます。とはいえ50年代60年代は、まだ米軍基地周辺で売られる程度。 しかし1971年、当時ナウなヤングの街だった銀座に「マクドナルド」1号店が開店。ハンバーガーを歩きながら食べるのが「カッコイイ」と若者たちに衝撃を与えました。
マクドナルドのハンバーガーは、まだ牛肉が一般的な食材ではなかった70年代初期の日本において、大変贅沢なもので、その後、数多くのハンバーガーチェーンが日本に上陸、あるいは日本独自のハンバーガーショップも誕生したのでした。
いまや日本では当たり前のハンバーグやハンバーガーですが、その歴史はいろいろあったのですねえ。
(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)24-10