世界有数の長寿国として知られる日本…。平均寿命は男性がほぼ80歳で、女性に至っては90歳に迫る勢いだそうですが、この数字を当然の事のように考えるのは如何なものでしょうか。
「人間五十年」とは織田信長で知られていますが、でも、これって実はそんな昔の話ではないんですよ。
以前、戯れに我が家の成人以上の平均寿命を調べたことがあるのですが、戦前は何と55歳でした。(乳幼児の死亡者を入れるといきなり20歳くらいになります。)
その論で言えば、実際には人間五十年どころの話ではなく、明治中期の日本人の平均寿命は43歳だったというデータもあるそうですし江戸時代は40歳を超えるともはや老境で、息子に家督を譲って隠居し、いつ死んでもいいようにしていたという話も聞いています。
ただ、このデータには実は大きな落とし穴がありまして、この寿命の短さというものは、医療技術や衛生観念の未熟さ・・・ということもながら、それ以上に大きかったのが、むしろ著しい栄養不足だったんだそうです。
これは当時の農耕技術では国民すべてに食料を行き渡らせることが難しかったということが前提にあるのでしょうが、(明治期に来日した小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンは日本人の食生活のあまりの貧弱さに驚愕したとか。)一つには桓武天皇の肉食禁止令以来、日本人が基本的に肉食をしてこなかったということもあるようです。
特に「動物の肉を食うと四足になる」と信じられていたこともあってその為、江戸時代にロシアに拉致された人々の中には、肉食を拒否してビタミン不足で亡くなった人もあったように聞いております。
となれば、当然、食い物には基本的にそれほど制約を受けなかったであろう権力者層の寿命はそこそこで、いつの時代も権力者層の平均寿命は庶民のそれを大きく凌駕しているようです。
そう考えれば、明治の45年間というのは、たかだか、45年とはいえ、当時の平均寿命が43歳であることを思えば、世代という点では三世代が包含されてもおかしくないわけで、現代の百年に相当するのではないでしょうか。
だから、同じ明治でも、明治一桁生まれと明治20年代生まれ、同40年代生まれでは、かなり、趣が違ってきていると考えるべきでしょう。(その意味では、昭和30年代は明治・大正の延長線上ですが、平成の御代は全くの別世ですよ。)
ちなみに、江戸時代における鎌倉時代というのは、昭和に置ける明治のようなもの・・・と言っても良いでしょうか。
共に、ひとつの象徴的な時代の先魁となったという意味では共通するものがあるでしょうが、一方で、時代、(あるいは社会体制)への対比と憧憬という点でもそう言ってもいいような気がします。
(小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ)