新緑がまぶしい五月になりました。そよ風がなびくと、辺り一面に若い青葉の香りが漂います。
自然の香りを楽しむ風習が、江戸時代から現代に伝わって、今でも季節の行事として親しまれていることがあります。五月五日に菖蒲をお風呂の浴槽に入れる、菖蒲湯です。
温かい湯に入れた菖蒲の葉からは、清々しい香りが放出されて心を癒してくれます。そして香りだけでなく、腰痛や神経痛に効く成分も排出してくれます。まさに天然のアロマテラピーと言ったところでしょうか。切り取って捨ててしまいがちな根には、血行促進や保湿効果があります。ですので、綺麗に洗って一緒に浴槽に入れるのがいいですね。
江戸時代に菖蒲をお風呂に入れるようになったのは武士の間で広まった武道を重んじる尚武(しょうぶ)の精神が関係しています。この『尚武』と読み方の同じ『菖蒲』を引っかけたのです。『勝負』とも同じでありますから余計に引っかけたくなったのでしょう。その語呂のいい植物、菖蒲を、五右衛門風呂に入れて健康を願うようになりました。おこなったのは五月五日。なぜなら中国ではその日に菖蒲を軒に吊るし、来たる夏に向けて病気にかからないよう厄払いをしていたからです。又、菖蒲の葉が刀の形に似ていることから男子に縁起のよい植物とされていました。そ
ういった中国の風習を武家が好んで取り入れたのだろうと考えられています。
のちに、この菖蒲湯は町民にも伝わり、銭湯や長屋でも真似をするようになりました。中国のように軒に菖蒲を吊るし、健康を祈るようにもなりました。そうして、いつしか五月五日が端午の節句と呼ばれ、男の子を祝う祭りの日になっていったのです。
屋根の上を高く舞う鯉のぼり。雄大に風に吹かれる親子鯉を見て目を保養した後は、ちまきを食べて腹を満たし、夜にはゆっくりと菖蒲湯に使って心身共に疲れをほぐして末長い健康を願いたいものです。
(コラムニスト 華山 姜純/絵:吉田たつちか)
2011-05