夏の夜空を彩る大輪の花…と言えば、打ち上げ花火です。大小さまざまな色の丸い花火が次々に舞いあがります。最近では丸だけではなく、UFO形やハート形、子供に人気のキャラクターの形まであり、毎年多くの人が花火大会を楽しんでいます。
花火を発明したのは中国です。六世紀頃、戦争の際に遠くにいる人へ情報を伝える為に用いられました。敵地に投げ込み危害を与える用途もあったようです。
観賞用に変わったのは、十四世紀後半のイタリアのフィレンツェにて。王侯貴族が催す会などで華やかに火の粉を舞い上がらせました。その派手な音と豪快さは人目を引きつけたので、たちまちヨーロッパじゅうに広まり各国の祝典で使われるようになりました。
その後、花火は日本にも伝来しました。十六世紀に鉄砲と共にやって来たのです。あの徳川家康が駿府城で、伊達正宗が米沢城で観賞したという文献が残っています。八代将軍徳川吉宗の時代には、飢饉や病気で沢山の人が亡くなりました。その慰霊と悪霊退散を願い、吉宗は隅田川で水神祭りを開催して花火を打ち上げました。これが隅田川の花火大会の起源と言われています。
当時、幕府は隅田川でのみ花火を打ち上げることを許可していました。花火職人はきれいな花火を咲かせようと技術を競い合いました。そして江戸には『玉屋』と『鍵屋』という二大花火屋が誕生しました。川の上流では玉屋が花火を上げ、下流では鍵屋が花火を上げていました。しかし玉屋のほうが格別に美しかったようで、人々は玉屋が花火を上げるたびに「玉屋だ、玉屋、玉屋!」と歓喜の声も上げたのです。今でも花火が夜空にバンと広がると「た~まや~」と言ってしまうのは、そういった江戸の風習のなごりなのです。
夏の風物詩である花火。いつの時代にも人々の心を掴み、感動させ、元気づける不思議な力を持っています。今年も豪華絢爛な打ち上げ花火が私達を励ましてくれることを期待します。
(コラムニスト 華山 姜純/絵:吉田あゆみ)
2011.08