一般的な生活習慣上の注意として、血液粘度を上昇させないように、運動や入浴、睡眠などで水分が失われた際には小まめに水分補給することや禁煙などがよく挙げられますが、ここでは食生活からの予防法について考えてみたいと思います。
血栓を防ぐヒントは、エスキモー人の食生活にありました。
デンマークのダイアバーグ博士らの疫学調査によると、同じように動物性脂肪の摂取量の多いデンマーク人とグリーンランドに住むエスキモー人とを比較すると心筋梗塞、動脈硬化、脳梗塞などがエスキモー人の方がはるかに少ないことがわかりました。
なぜそのような違いが現れたのかさらに調べますと、その差は食事の違いによるものであることが明らかにされました。すなわち、デンマーク人は、飽和脂肪酸の多い牛や豚などの獣肉を食べるのに対し、エスキモー人はEPA(エイコサペンタエン酸=EicosaPentaenoic Acid)やDHA(ドコサヘキサエン酸=Docosa Hexaenoic Acid)などの不飽和脂肪酸の多く含む魚肉やアザラシを多く食べていたからです。なお、DHAやEPAはまとめて魚油と呼ばれています。ここで、まず飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いについて説明します。
飽和脂肪酸はその化学構造に二重結合をもっていない脂肪酸で不飽和脂肪酸は二重結合を持つ脂肪酸です。二重結合はあればあるほど融点が下がるという性質がありますが、融点が下がるということは固まり難くなるということです。逆に二重結合のない飽和脂肪酸の融点は高く、固まり易いということになります。
すなわち、ラードのように常温では固化してしまう脂になるというわけです。陸上動物は体温が高いので、飽和脂肪酸でもよいのですが、魚のように低い温度で生活する動物は、体温も低いので飽和脂肪酸だと体内で固まってしまうため、不飽和脂肪酸の方が体に適しているのです。
さて、不飽和脂肪酸であるDHAやEPAは悪玉コレステロールを下げる働きを持っていて、これだけでも動脈硬化予防によいのですが、さらに血栓を防ぐ働きも持っています。
血栓がどのような仕組みで形成されるかと言うと、血管が傷ついたときにそれが刺激となって血管壁にある不飽和脂肪酸の一種アラキドン酸からプロスタグランジンという物質が作られ、そのプロスタグランジンの働きで血小板が凝集することによって起こります。DHAやEPAにはプロスタグランジンの生成を抑制する働きがあり、DHAやEPAを多く含むサバやイワシ、マグロ、ハマチなどの青魚を摂取すると血栓を防ぐことができるのです。
なお、DHAやEPAはアレルギーの発症に関わるロイコトリエンの生成も抑制するので、花粉症などのアレルギー性疾患に対する効果も期待されています。
今回は特に魚油について詳細に説明しましたが、魚油の他にも、タマネギやにんにくに含まれる硫化アリル、イチョウ葉エキスに含まれるテルペノイド、黒酢に含まれるクエン酸などにも血栓を防ぐ働きがあります。さらに、納豆に含まれるットウキナーゼには血栓を溶解する働きがあるといわれています。これらの食品を上手く食生活に取り入れられて血栓の予防にお役立ていただきたいと思います。
(医学博士 食品保健指導士 中本屋幸永/絵:そねたあゆみ)
2012-10