「カレー南蛮」「チキン南蛮」「かも南蛮」と「南蛮(なんばん)」とついた日本料理ってありますよね。皆さんはなぜこれらの料理に「南蛮」ってついているかご存知でしょうか?
いや…… その前にそもそも南蛮って何のことでしょう?
時代劇とかを観ていると、戦国時代の物語に「南蛮人」というのが出てきます。文字のイメージですと、南の島の野蛮人って感じですけど、これはヨーロッパ人のこと。じゃあなんでヨーロッパ人を南蛮人と呼ぶのでしょう?
この「南蛮」なる言葉は、もともと中国の言葉でした。中国には「中華思想」というのがあって、世界の中心は中国で、その中国の四方に住む人は皆野蛮人という考え方です。
北に住む野蛮人を「北夷(ほくい)」、西に住む野蛮人を「西戎(せいじゅう)」、東に住む野蛮人を「東夷(とうい)」、そして南に住む野蛮人を「南蛮(なんばん)」と、呼びました。夷、戎、蛮というのは、相手を軽蔑するときに使う文字。これを中国の人たちは、自分の国中華、つまり華の中に住んでいない人に使ったのです。
え? ひどいですって? そうですね。でも日本人もアイヌ民族のことを蝦夷と、しっかり夷の文字を使って呼んでおり、異民族を蔑称で呼んでいたのです。徳川将軍は、征夷大将軍。つまり夷を征服する大将軍という意味。幕末の攘夷運動は、「夷を攘(はら)う」という意味です。
このように中国の言葉は日本に入ってきて、日本風にアレンジされて使うようになりました。「南蛮」もしかり。昔は、日本は琉球や東南アジアを「南蛮」と呼んでいたのです。そして戦国時代、ヨーロッパからキリスト教の宣教師がやってきます。日本人は、南蛮の方向からやってきた、彼らヨーロッパ人のことを南蛮人と呼んだのです。
このように戦国時代にヨーロッパ人(主にスペインやポルトガル)を南蛮人と呼び、彼らが伝えた料理を南蛮料理というようになりました。
例えば、南蛮菓子だと、「カステラ」や「コンペイトウ」は、私たちがいまもよく食べている南蛮菓子です。
古来、日本には魚を油で揚げる料理法がなかったのですが、これも南蛮人から伝わったもので、さらに油で揚げた魚を酢に漬けたものを「南蛮漬け」といいます。
「南蛮漬け」は明らかにマリネの一種ですね。
また油で炒めたり揚げて煮た料理を「南蛮煮」といいます。南蛮には、他にネギや唐辛子を使った料理を指す場合もあります。
●ではカレー南蛮は南蛮人が伝えたの?
じゃあ、カレー南蛮は南蛮人が伝えたのかって聞かれそうですね。カレーは明治になってから、イギリスから伝わった料理。
そのカレーをそばにかけたものがカレー南蛮。
カレーは香辛料たっぷりなエスニック料理で唐辛子も入っていますし、さらにネギも入っているところから「カレー南蛮」と呼ばれるようになったようです。
ネギや唐辛子を南蛮と呼ぶのは、一説によると南蛮人がネギを好んだためという説があります。
また他の説としては、大阪の難波がネギの名産であったことから、ネギのことをなんばんと呼ぶようになり、やがて南蛮と表記されたという説もあります。
そして唐辛子は、南蛮人がヨーロッパから持ってきた香辛料。
「カレー南蛮」は、明治時代になって生まれた比較的新しい「南蛮料理」だったのですね。
(食文化研究家 巨椋修(おぐらおさむ)/絵:そねたあゆみ)2015-08