北の空で、北半球では一年中見ることのできる星座があります。その一つが、こぐま座です。こぐま座は、ひしゃくの形をしていて、その先端には北を示す目印となる北極星があります。北極星は動かないと思われがちですが、一晩のうちに小さな円を描くようにして、わずかに移動しているように見えます。
同じようにひしゃくの形をした、「北斗七星」と呼ばれる星座を、おおぐま座と呼びます。今回はこれらの星座がなぜ天に昇ったかを紹介します。
森に住む妖精の一人に、カリストーという元気な娘がいました。大神ゼウスはカリストーに恋をしました。二人のあいだにはアルカスという男の子が生まれ、二人はしあわせに愛し合っていました。しかしそのことを知ったゼウスの妻、女神ヘーラーは嫉妬に怒り狂いました。
ヘーラーは、カリストーの体を毛深くし、声を低くし、狂暴な熊に変えてしまいました。誰からも美しいと誉めたたえられていた口も、尖った歯を持ったあごに変えられてしまいました。一方、カリストーの息子であるアルカスは、立派な青年に成長し、野山で狩りをするようになりました。
ある日アルカスは、一頭の熊に向かって弓を引きました。しかしそれは、熊に変えられた自分の母親の、変わり果てた姿だったのです。これを知った大神ゼウスは嘆き悲しみました。
そこで時間を少し前に戻し、カリストーがアルカスに射殺される直前に、二人とも空に上げ、星座にしました。そうして母親のカリストーがおおぐま座、息子のアルカスがこぐま座になったのです。ですから、おおぐま座は息子をいつくしみ、息子の周りを回転しているのだと言われています。
しかし嫉妬深い女神ヘーラーの怒りはますますおさまらず、おおぐま座とこぐま座は永遠に空にあり、地上に降りて休むことを許してもらえないために、北半球では一年中空に昇っているのだそうです。
昔は航海士の北の目印とされた大切な星、北極星。それは、こうして見ると、悲しい物語の結果なのですね。北極星は肉眼でやっと見つけることができるほどの小さな星ですが、探してみて、悲しい母子のお話に思いを馳せてみてはいかがでしょう。
(コラムニスト 気象予報士 チャーリー)