(絵:吉田たつちか)
人工知能(AI)が人間の能力を超えるというのは少し前まではSF映画や小説の世界でした。ところがAI将棋との対戦で腕を磨いてきたという若干20歳の藤井翔太棋士がタイトルを総なめにする快進撃を遂げている姿を見て、人工知能(AI)の活用の是非が問われてきました。人工知能(AI)を駆使して自分のスキルを向上させ、生産性を上げられる人材が世の中に勝ち残っていく時代です。
そんな中、チャットGPTという本格的な人工知能(AI)が発表されるや世界中で話題が沸騰しています。スマホが世の中を変えて以来の大きな衝撃だとか、原爆以来のインパクトで世の中がガラリと変わると洞察する識者もいます。
その注目度は、昨年11月に公開されるや、チャットGPT登録者がわずか2か月で1億人を突破する勢いが物語っています。さらに、今年に入ると、米Microsoft社が開発元のOpenAIに対して100億ドル(1兆500億円)を投資することが報じられ、注目度がさらにヒートアップ、同社の株価もうなぎ上りです。
早くも、同社の主要アプリであるMicrosoft365にチャットGPTが搭載されたMicrosoft365 Copilotが仕事のやりかたを根本的に変えるとして話題になっています。ちなみにCopilotとは副操縦士という意味ですが、力強いAIアシスタント、AI秘書を使いこなせる人とそうでない人では生産性、仕事遂行能力に大きな差が生まれてくることは必然です。
ネット上では、簡単な計算をやらせてみたら間違った答えが出てきたとか、ある政治家先生などは自分の名前を入れて質問したところ、間違った答えが多かったとSNSで発信して、顰蹙をかっています。
電卓で簡単に答えがでる計算問題を質問すること自体がナンセンスであり、そんな計算は100円ショップで買った電卓に任せればいいだけで、人工知能性能の可否の問題ではありません。政治家先生の質問の答えに間違いが多くあったのは、その先生のデータが、ネットの中にごく少なかったか、政治家としての知名度が低いか、たいした政治活動をしていなかったか、同姓同名の人と大差ないレベルだったのが判明したのにすぎません。
日本人は、えてして完璧を求める傾向があります。日本では、電車が数分遅れただけでお詫びのアナウンスが流れることに、外国の人は奇異に感じています。電車が数分遅れたからといって目くじらを立てるせせこましさが、今やマイナスになっているのです。日本が、先進国の中で、唯一、30年間も成長してこなかった原因のひとつです。
イーロンマスクのEV車も当初、高をくくっていた多くの日本の自動車メーカーや評論家はいまになって慌てています。
事故が起こった時どうするかとか、自動運転での過失責任はどうなる等々、マイナス面を並べた、枝葉末節な議論が続いていました。
日本のように失敗を許容しない社会では、無責任リーダー、度胸なしリーダーがはびこってしまいます。いまだにマスクを外せない日本はその象徴です。スナックでマスク無しで大きな声で会話し、カラオケを歌っていた人が店をでたらマスクをする風景は滑稽ですらあります。
ところが、世界の先駆者たちの思考回路は全く異なるのです。いわゆる、トライ&エラーを繰り返しながら速い速度で前に進めているのです。失敗したらその部分を直し(バージョンアップ)ながら進むのが当たり前です。金型を作って同じものを大量生産するアプローチとはまったく異なります。
アップルがiPhoneを世の中に出した当初、日本の携帯電話メーカーは高見の見物をしていた側面がありました。当時のiPhoneと同様な機能は日本メーカーの携帯電話にもすでにあったからです。
ところが、彼らの思考回路はまったく違ったものでした。電話機でなく小型パソコンを作ったのです。パソコンをイメージする命名では、ユーザーに敬遠されるので、あえてPhone(電話機)として売り出したに過ぎません。いまでも、若い人は電話機でなく超小型パソコンとして使っています。いまだに電話機能しか使っていない人は、ガラケーの方が料金が安くて良かったと愚痴をこぼしています。もったいない限りです。
学校教育現場も根本変革が必至です。アメリカの司法試験をパスできたとの情報もあります。これからの、子供たちには答えを覚えさせる教育は不要で、よく遊ばせる教育、口論できる教育が必要だと思います。
わたしなど、これからのバラ色の世の中の変化が見たくて、もう少し長生きしたいと真剣に考えるようになりました。元気に長生きのためにはストレスが一番よくないそうなので、適度に酒を飲み、タバコをたしなみ、可能なら新たな恋もしてみたいと思っています。
(ジャーナリスト 井上勝彦)2023-05