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 「啜(すす)る」という食文化とヌードルハラス

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(絵:吉田たつちか)

●ヌードルハラスメントとは
「ヌードルハラスメント」という言葉をご存じでしょうか? 「ヌードル」とは麺ですね、「ハラスメント」は相手に苦痛を与えるとか、嫌がらせという意味。なんでヌードルがハラスメントになるかというと、麺をすするという音が苦痛だという人が増えてきて、マナー違反になりつつあるということなんです。

●世界で麺をすするのは日本人だけ
実は「すする」という食文化をもっている民族は世界で日本人だけです。日本人がいつから麺をすするようになったかは、実のところわかっていません。
戦国時代末期に千利休が茶道を大成しましたが、茶道の作法にこの「音を立てて茶をすする」というものが、現代に伝わっています。よって、すでに戦国時代には「すする」という食文化があったと考えられます。

●すするには技術が必要らしい
普段から麺をすすらない外国人に「すすって食べると美味しいよ」と教えてあげても、ほとんどの人が、上手にすすれません。もちろんまったくすすれないということはないのです。
しかし麺を口に入れる分量がわからず、大量にほおばってしまい目をシロクロさせてしまったり、すするための口の形がよくわからず苦労したりしているようです。
特に食事のときに音を出すのが下品・マナー違反となっている国の人の場合、音を立てて蕎麦をすするのには羞恥心や抵抗感があったりするようです。
またあの「ズズッ」という音が鼻水をすする音を連想してしまってどうしてもできないという人もいるようです。

●すするのはワインのティスティングと一緒
日本人はなぜ麺やお茶をすするのでしょうか? 最初に答えを言っておきましょう。麺やお茶をすすると、科学的にも本当に美味しくなるのです。ちょうどワインのティスティングをするときに、ソムリエがワインを軽くすすったりすることがあります。そうすることで、ワインに空気が混じってより味が引き立つのです。
また、熱い麺類は、空気と混ぜることで温度調整をするという意味もあります。

●日本人はレンゲを使わずスープをすする
このように日本人は、うどんも蕎麦もすすって食べます。ではスープは? はい、やはり丼を両手で押し頂くがごとく持って、スープを飲みます。
これも熱い麺やお茶をいただくときと同じで、すすることで空気と混ぜ、スープの温度調整をしているのです。
ところが、中国からやってきたラーメンには、日本の麺類にはない食器が一つついてきます。それがレンゲ(スプーン)です。まあ、いまどきのオシャレなうどんや蕎麦ならレンゲが付いている場合もありますが・・・
いまや国民食となったラーメンですが、日本に中華料理が入ってきたころ、中華料理屋の客は主に中国人で、中国人にはスープをすする文化はなく、最初からラーメンにはレンゲが付いていました。
また、カレーうどんの場合もレンゲが付きます。カレーうどんの場合の理由はわかりますよね、他の麺類のように勢いよくすすってしまうと、汁が飛んで、服が汚れるという事件が起こってしまいますから(笑)
「すする」という日本独特の食文化は、いまマナーの欧米化によって、消えつつあります。それもまた、時の流れなのでしょうね。

(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)24-02

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