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個人用の箸と茶碗を分ける食文化

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1205-03 日本の食文化のおもしろいところとして、箸や茶碗といった食器類が家族でも全員個人用のものがあるというのがあります。
あまりにもこれが常識になっているので「え?」と、思う人もいるかも知れませんが、欧米にせよ中国にせよ「これはおじいちゃんのお箸、これはお母さんのお箸、これはぼくのお箸」と、個人のお箸や茶碗が決まっているという文化は、まず日本以外ではないでしょう。せいぜい大人用と子ども用が別れている程度。
アメリカやヨーロッパではナイフやフォークに対して「これはおじいちゃんのやつ。これはお母さんの」と、区別することはありませんし、お皿もしかり。
作家である井沢元彦さんの『穢れと茶碗』(祥伝社)によると日本人はたとえ家族が使ったお箸や茶碗でも、自分以外の人が使ったものはどんなにきれいに洗っていたとしても“汚れている”と感じるそうなのです。しかもその食器は和食器に限られ、カレーライスに使うお皿やスプーンは洗ってさえいれば、何の抵抗もなく使えるのに……。
井沢元彦さんはこれは一種の宗教なのではないかとおっしゃるのですが、わたしもそう思います。
わたしたち日本人は箸を手にながら合掌し食事の前に「いただきます」と頭を下げます。欧米には食前に神に祈りを捧げることはありますが、「いただきます」に相当する言葉はありません。
日本人は誰にいただきますといっているかというと、それはもちろん料理を作ってくれたお母さんや料理人、あるいはそのために働いてくれたお父さんや農家の人々、そして田畑や山や海にいる神々にお礼をいっているのです。
(食文化研究家 巨椋修<おぐらおさむ>/絵:そねたあゆみ)2012-05

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