日本人なら誰しも見たことがある花・・・菊。秋の代表格であるこの花は日本の国花になっています。よって私たちの生活に深く浸透しており、五十円玉の表に描かれているのはご存知の通り。パスポートの表紙にも金色に輝く菊が描かれています。そして何より皇室の家紋であることが、菊が日本を象徴する花と決定づけたのではないでしょうか。
菊の歴史は古く、約千五百年前に中国で交配によって生まれ、飛鳥時代に不老長寿の薬として伝来しました。漢字で「菊」と表記したのは花の印象が散らばった米を集めたようだからとか。平安時代には観賞用としても育てられ、小倉百人一種で凡河内躬恒が「心あてに折らばやをらむ初霜のおき惑わせる白菊の花」と歌っています。鎌倉時代に入ると後鳥羽上皇が非常に好み、刀や日用品に菊の紋様を入れたので、それが代々受け継がれて天皇家の家紋になったそうです。
江戸時代になると広く庶民にも親しまれ、花として観賞するだけでなく菊型の和菓子を作って味わったり、小菊をあしらって菊人形を作って楽しみました。幕末には中国を経由してヨーロッパに輸出され、やがてスプレー菊という洋菊が生み出されていったのです。
このように愛されてきた菊の花ですが、平成の現代では仏花のイメージが強く、若い人達が好んで部屋に飾るという花ではなくなりました。秋の目玉だった菊人形展は来場者数を減らし、開催を取りやめてしまった所もあるのです。
そんな状況に立ち向かったのが日本企業。酒造会社ではキリンマムという黄緑色の小菊を生みだし、たちまちフラワーアレンジメントで愛用されるようになりました。電力会社では甘い香りのアロマムの開発に成功。今後、女性から支持を得られるのが予想され、菊作りの活性化も期待されています。
花言葉は「高貴」と言う菊の花。時代に合わせて変化し、日本人の心から忘れ去られることなく後世でも国花として凛と咲き誇ることを切に願います。
(コラムニスト 華山 姜純/絵:吉田たつちか)