冬の花のひとつにシクラメンがあります。人気の秘密は育てやすいこと。鉢植えでもカーテン越しの暖かな場所に置けば、次から次へと芽を出して冬の間じゅう観賞することができます。近年のガーデニングブームでミニシクラメンも誕生し、お手軽な値段で購入できるようにもなりました。
ベルベットのような赤い花びら、恋愛運が高まりそうな鮮やかなピンク色、そして昭和のヒット曲を想い出させる真綿色など、シクラメンは花の色も豊富なのでどれを買おうか迷ってしまいますね。
そんなシクラメンですが、植物学における和名は『豚のまんじゅう』と言うから驚きです。全く結びつかないシクラメンと豚。なぜこのような名前になったのかは、花の歴史に理由がありました。
シクラメンの原産はヨーロッパの地中海地方です。 花の起源は古く、紀元前から生息していたようです。 中世までは観賞するためではなく、その球根を食べる ために育てられました。
大航海時代になってジャガイモが地中海地方に伝わると、シクラメンの球根は豚の餌に変わってしまったのです。日本に伝来したのは、そのようになってからの明治時代の頃。その時、シクラメンが『豚のパン』と呼ばれていたせいで日本では『豚のまんじゅう』と名が付けられてしまいました。パンをまんじゅうと訳すところが明治の日本人らしいですね。
そして、もうひとつ面白い話があります。西暦一五十年頃に活躍した古代ローマの作家、アプレイウスが著書のなかで「シクラメンを鼻に詰めると抜け毛予防
に効果がある」と記しているそうです。古代の人々も抜け毛に悩まされていたのですね。効果の程は解りませんが、シクラメンの香りも楽しめて一石二鳥かもし
れません。勇気のある方は是非お試しあれ!
(小説家 華山 姜純/絵:吉田たつちか)