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『桃太郎』に見る出生譚

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(絵:吉田たつちか)

 日本で一番有名な昔話は、『桃太郎』でしょう。私たちがよく知る勧善懲悪のストーリーができあがったのは、実は明治時代です。欧米列強を鬼に見立て、それを退治する桃太郎と仲間たちは大日本帝国と同盟国。このように戦意高揚のためのお話が『桃太郎』だったのです。尋常小学校の教科書に掲載され、そのまま現代でも愛されています。

 では、桃から生まれるという荒唐無稽なお話は、どのようにして生まれたのでしょうか。桃太郎に類似する話は日本全国にあり、桃だけでなく瓜や箱から生まれてくることも。沖縄では瓜から生まれた男の子が琉球王になったといわれています。香川では桃からとても美しい女の子が生まれたそうです。あまりの美しさに、誘拐されぬよう男装をさせ「桃太郎」と男性名付けたという昔話もあります。同じような出生譚に、墓から生まれるというものがあります。『子育て幽霊』や『幽霊飴』という昔話がこれにあたり、京都の六道之辻が有名ですね。これは高僧の出生譚としてよく用いられているストーリーです。

これらから分かるように、昔の人々は「優秀な人は普通の誕生方法でない」と考えたのです。権威付けの一種で、このような出生譚は昔のスターに必須でした。桃太郎の場合、彼は鬼退治に準じる何かしらを遂げた人だったのでしょう。桃から生まれたのは、後付けです。権威付けのために、後世の人が桃から生まれさせたと考えて間違いありません。

 『桃太郎』のような特別な人たちの特別な出生譚を語り継ぐことは、権威付けだけが理由ではありません。出世など夢のまた夢である大衆が「我々とは違うのだから」と自分たちを慰めることにも一役買っていました。それでも人間には誰しもヒーロー願望は持っています。誰かの役に立ち尊敬を集めたい。このような願望を持っていても、叶えることは困難です。そんな時に『桃太郎』や『子育て幽霊』の話を語り継ぐことで、代償的に自己実現をしようとしました。

 代償的な自己実現は、昔だけの話ではありません。現代でも少年漫画ではヒーローものが人気作品ですし、海外では『シンデレラ』のような女性の出世物語が今も支持を集めています。現実と願望のすり合わせは、限られた能力と時間を生きる人間には必要なものです。それを物語に求めるのは自然な形といえます。ストレスフルな現代こそ、『桃太郎』は必要なお話なのかも知れません。

(コラムニスト ふじかわ陽子)2020-02

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