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和食のなりたち

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(絵:吉田たつちか)

**天武天皇が和食に与えた影響**
 初めて天皇を名乗った天武天皇。この人が後の日本に与えた影響は絶大です。例えば天武天皇は日本書紀・古事記の編纂を命じました。日本書紀と古事記を公的な書物とすることで、天皇が天照大神という神様の子孫であることをあらわしたわけです。
 日本国の原型を作ったとさえいわれる天武天皇ですが、日本の食文化にも大きな影響を与えています。天武天皇は日本で最初に「肉食禁止令の詔(みことのり)」を出した人でもあります。これは牛馬、犬、猿、鶏を4月から9月まで食べることを禁止したものです。
 読者の中には「え? 他の動物は食べてもいいの?」と思うかも知れませんね。実はいいのです。牛や馬は農耕に役に立ち犬は番犬猟犬になる。猿は人に似ている。鶏は時を知らせると、まあ猿以外は人間に役に立つ動物。他の野生動物は役に立つどころか、田畑を荒らす害獣であったりするのです。
 古来、天皇は米を司る祭司、米作りを邪魔する動物などいない方がいいという考え。さらに時代的には天武天皇が即位したわずか5年前に朝鮮半島の白村江で行われた、日本・百済の連合軍と、唐・新羅連合軍との戦争でボロボロに負けていました。
 そして百済は消滅。そんな時代に、日本国王であった天武天皇は自らを天皇と名乗ったのです。これまでの東アジアでは中国の王が皇帝を名乗り、近隣諸国は中国に頭を下げて王を名乗ることが許されていました。
 そんな時代に「天皇」という名称を名乗るということは中国皇帝には従わないと宣言したのと一緒。
 となれば、当時の世界最強国の一つである唐からいつ侵略されてもおかしくない。もし戦争になれば兵を養うために大量の食糧である米が必要、そのため何がなんでも米作りを進めなければなりませんでした。
 この時代に米を中心とし、汁物に魚といった日本独特の和食の原型ができたと考えられています。ちなみに和食の定番お刺身は天武天皇の時代である飛鳥時代からありました。

**精進料理と西洋料理の影響**
 その後和食は中国からやってきた禅宗の精進料理の影響を強く受けます。禅僧は空腹や冬の寒さを避けるために温めた石を懐に入れていたところから、懐石料理が生まれます。一説によりますと、懐石料理を考案したのは茶道の千利休だと言われています。茶の種を輸入にしたのは禅宗の一派である臨済宗開祖の栄西が、中国より持ち帰ったと言われています。
 禅宗を介して入ってきた茶はやがて茶道を生み、精進料理から懐石料理が生まれ、和食に大きな影響を与えたのです・
 千利休は戦国時代の人ですが、この時代和食に大きな影響を与えた人たちがいます。それは西洋からやってきた宣教師をはじめとする西洋人たち。
 例えば卵料理は江戸時代に『玉子百珍』という料理書が出るほど愛された卵料理ですが、西洋人が入ってくるまでどういうわけか、日本人はほとんど食べなかったといいます。
 卵以外には後に和食を代表することになる天ぷら。これは魚などを油で揚げたり衣をつけてフライにしたものが和食化したものです。徳川家康が鯛の天ぷらもしくは油揚げに当たって亡くなったことは有名ですね。
 南蛮料理と言われた西洋料理ですが、日本で広がったのは当時やっと普及しだした砂糖を使ったカステラ、コンペイトウ、ボーロお菓子でした。

**江戸時代に和食がほぼ完成し明治と戦後に飛躍した**
260年続いた江戸時代は、鎖国状態の中で独特の文化を築きました。食文化もしかりで、和食も江戸時代にほぼ完成したといっても過言ではないでしょう。
江戸食文化の特徴は他国と違い、支配層である武士階級の活躍はあまりなく、庶民が食文化を発展させたところにあります。以前にも書きましたが、現在海外で人気の和食の多くは江戸時代の食文化は庶民が作り出したものが中心でした。
 さきほど挙げた天ぷらは江戸時代では主に屋台で食べられていました。寿司もそうです。そば、うどんもしかり。これらは家庭や高級料亭で食べるものではなく大衆料理でした。
明治時代になると、欧米の影響から和食の幅が大きく広がります。すき焼きは牛鍋から変化したと言われていますが、最初は荒くれものや肉体労働者しか食べない下品なものとされていたようです。
トンカツは逆に上流階級が晩餐会で食べていたフランス料理のコートレットを庶民風に変えたもの。コートレットは英語だとカットレット(Cutlet)、カットレットがカツレツとなり、豚の音読みであるトンとカツが合わさりトンカツと言われるようになりました。
 明治になり西洋料理が和食に取り入れられることによって、和食は大いに飛躍しましたが、さらなる飛躍が太平洋戦争後です。海外からの流通が良くなり、日本はこれまでにない豊かさを手にいれます。
 町には世界中の料理店が並び、家庭料理でも今日は和食、明日はイタリアン、あさっては中華と世界中の料理を家庭でも食べるのはおそらく日本くらいかも知れません。
 和食も世界中の料理を日本風にアレンジしながら、日に日に進化と変化をしているのです。
(文:食文化研究家 巨椋修(おぐらおさむ))2020-06

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