(絵:吉田たつちか)
ホットドック、コカ・コーラ、そしてハンバーガー、アメリカ生まれのファーストフード。世界の誰しもが食べたことがある食べ物たちです。今回はハンバーガーにスポットを当ててみましょう。
ときは1904年。アメリカで開かれたセントルイス万国博覧会で丸いパンにハンバーグを挟んで売り出したのがはじまりとされています。
まあしかし、ハンバーグをパンで挟むという発想はありがちで「うちが発祥」というお店はたくさんあるようです。
さて、ハンバーグは挽き肉を使います。くず肉とも言われますが、肉の塊からナイフなどで余った肉をこそげ取るのはなかなかの重労働。
そこでちょっとときをさかのぼります。1876年のフィラデルフィア万国博覧会に、アメリカン・チョッパーという手回し式の挽き肉器が初めて発売されました。これは便利ということで、たちまち全米に広まります。これでハンバーガーのパテ(お肉の部分)が作りやすくなりました。
アメリカというのは移民の国です。17~18世紀にイギリス人の新教徒がやってきて、そのあとヨーロッパ各国からくるわけです。おもしろいことに、アメリカ人はイギリスからの独立戦争のときに、大のイギリス嫌いになってしまった。「イギリス人が大好きな紅茶なんて飲まねえ」ってんで、アフリカ原産のなんだかよくわからないコーヒーを飲みだす。 「スコッチなんて飲まねえ! 俺たちにはバーボンがある!」と、対抗する。
ハンバーガーもやがて「イギリスのサンドウィッチなんかいらねえ、俺たちにはハンバーガーがある」となるのです。 アメリカというのは、ヨーロッパのいろいろな国から移民が来るわけですが、最初に来たイギリス系が上流階級になり後から来たドイツ系やイタリア系は、白人の中でも貧しい層になる。
貧しいけど美味しいものは食べたいというのが人間。ふるさとの味も恋しい。ドイツ人って食卓に酸っぱいものが欲しい人たちで、何かアメリカでいい食材や調味料を作れないかな~と、できたのがアメリカを代表する調味料トマトケチャップ。ほかにマスタードも酸っぱくていい。キュウリのピクルスも作っちゃおう。これらが、ドイツ系移民だけではなく、他の人々にも伝わっていく。
さてさて、挽き肉、ケチャップ、マスタード、ピクルス。アメリカ生まれの食べ物ハンバーガーやホットドックに必要なものがそろってきました。
さて。アメリカでは南北戦争が起こりました。昔のアメリカって北部は商工業地帯。南部は農業地帯。南北戦争は北軍の勝利で、商工業は南部にも広がります。
農業のランチは農作業をして、お昼に家に帰って食べるもの。しかし商工業の労働者は、家に帰れません。
農家だとランチを食べた後少しのんびりして……、と余裕がありますが、商工業だとお昼休みは1時間。とにかくさっと食べて少しコーヒーを飲んだら、すぐに工場に戻らないといけない。すると、そんな労働者たちを当て込んで、工場の周りにファーストフードの屋台がたくさん出るようになる。
その中に、ハンバーガーの屋台もあったのですが、元々は挽き肉ではなく肉をスライスしたものだったのです。しかし当時の労働者には歯が悪い人も多かった。そこで挽き肉にしたものなら、肉を噛み切る必要がないので大好評。
ちなみにこの時期に広まったのが、ホットドック。焼いたソーセージにパン、ケチャップやマスタード。ハンバーガーと似ていますね。どちらも安いのが魅力。それは普段なら捨てるようなステーキで使われなかった部分や内臓、スジなどを入れているから。
1948年(昭和23)、アメリカのカリフォルニア州でマクドナルド兄弟が小さなハンバーガーショップをはじめます。
やがてマクドナルドは、全世界に広まり、ハンバーガーの代名詞にまでなるのでした。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2021-09