UA-77435066-1

勝利を果実に結実させる

 | 

(絵:吉田たつちか)

 私はよく、講演などの場で、「仕事とは何か?」と問うことがあるのですが、こう言うと、よく、営業の方は「とってきた仕事をするのは当たり前。仕事は取ってくるまでが仕事だ」と言いますが、それは仕事ではないんですね。同様に、現場の方は「俺たちが良い仕事をしているから依頼が来る。良い仕事をすることが仕事だ」と言いますが、それも仕事ではありません。仕事とは、「仕事を取ってきて、仕事をして、代金を回収するまでが仕事」なんです。それがなければ、ボランティアであって仕事ではないんですね。
  この点で、かつて、ナポレオンを評して、「彼がやったことは多くの人を殺して、国を小さくして、次代に申し送っただけ」と言った人がいましたが、つまり、「戦争に勝つ」ということと、その後の「勝利の果実」は、必ずしも、「もれなく付いてくるグリコのおまけ」(古い?笑。)ではないということです。
ただ、ナポレオンも何もまず戦争ありきだったわけではなく、列強との共存も模索していたようですが、列強の側に「革命の排除」という目的があった以上、難しかったかとは思います。が、それでも、そこを突破できる、その道に長けた人材がいなかったわけではないんですよ。
吉田茂は終戦直後、「戦争に負けて外交で勝った歴史がある」と言ったといいますが、その最たるものこそがフランスの外相・タレーランでしょう。タレーランは、「ナポレオンを裏切った陰謀家」として、あまり評判はよろしくないようですが、その外交手腕は見事で、ナポレオン失脚後の講和会議に「裁かれる側」の代表として参加しながらも、戦勝国間の利害対立につけ込み、巧妙に立ち回って、いつの間にか「裁かれる側」から、ただの会議参加国になっていたとか。
 もし、事業者が八方塞がりに追い込まれたとき、商品の側でこの状況を突破してくれれば、こんなに有難いことはないですよね。この点で、女優・南野陽子はデビュー直後、マネージャーの努力も虚しく、なかなか売れなかったそうですが、突破口を開いたのは彼女自身で、自分で営業にまわって仕事をとってきたそうです。マネージャーからすれば、有難い!って話ですよね。その意味では、もし、ナポレオンとタレーランが「部下」と「上司」の関係ではなく、「共同経営者」だったなら、その後の展開は変わってきたかもしれません。ただ、前漢の名将・韓信、日本の源義経などもそうですが、こういう軍事的天才と言うのは、目の前で自分がやった仕事の成果が見えるからか、ものすごく、気位が高いんですね。自分が誰かと対等に組んで仕事をするなどというのは、到底、許せる話ではなかったでしょうが。 

(小説家 池田平太郎)2024-3

コメントを残す