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キツネとタヌキから学ぶ生き方

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(絵:吉田たつちか)

 日本昔話で登場頻度の高い動物といえば、キツネとタヌキではないでしょうか。今でも住宅地をねぐらにする個体がおり、時折、東京のど真ん中で保護される個体がニュースにもなっています。
昔話では、キツネは少し意地悪で、タヌキは少し間抜けな役回りというのが定番です。実はこれ、実際に彼らと接してみると当たらずとも遠からずなんですよ。キツネはとても賢い動物で、もし次に家畜化できるとしたらキツネだといわれるほど。記憶力が良いので、一度失敗したら同じ過ちを繰り返さないよう努力するのが特徴です。一方タヌキはというと、キツネに比べるとおっとりとした印象を受けます。例えば、山の中で車と出会ったとします。キツネは車を避けますが、タヌキはビックリして固まってしまったり、追いかけられていると勘違いして逃げたりするんです。これが交通事故の原因となり、命を落とす個体も…。
 同じイヌ科の動物であるにも関わらず、なぜこのような違いが出るのでしょうか。それは「縄張り」の違いがあると考えられます。キツネは自分の縄張りがあり、その範囲内で生活します。縄張り内で生まれた個体も、成長するにつれ自分のテリトリーを持つように。昔話でいう「狐の呪い」や「狐の恨み」というのは、縄張りを守ろうとする生態がこのように見えたのでしょう。
 ところが、タヌキは仲間がいれば、そこが自分の居場所です。特別な縄張りを持たず、排他性がありません。特別な存在なのは、自分の伴侶だけ。そんなタヌキが他のタヌキに自分の存在を伝える手段として、ため糞があります。文字通り糞を一か所に溜める行動で、複数のタヌキが同じ場所で排泄を行うのです。このため糞で、何となく近くにいる仲間を感じ、何となく距離を保って暮らしています。この「何となく」が昔話でも憎めないキャラクターとして描かれる要因かもしれませんね。
 さて、日本昔話の2大スターのキツネとタヌキの現在は、明暗が分かれてしまっています。キツネは残念なことに個体数が激減。里山が開発されたり、外来種のアライグマに棲家を追われたりと散々なよう。それなのにタヌキはというと、本来の生息域からどんどんと勢力を広げ、今では離島にまでいるんです。
 この現状も、昔話の教訓のようで興味深いと思いませんか?縄張りに固執するキツネは数を減らし、柔軟な生き方が出来るタヌキは勢力図を拡大。彼らの姿から、私たち人間は学ぶものが多いように感じます。(コラムニスト ふじかわ陽子)
(コラムニスト ふじかわ陽子)2024-4

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